年々激しくなる自然災害から、どうしたら身を守れるのか?
読み終わるまで: 9分
今回のテーマは「ハザードマップとは? どう役に立つの?」です。
地震、台風、大雨。日本は古くからさまざまな自然災害に見舞われてきました。とりわけ近年は、気候変動に伴う集中豪雨などが相次ぎ、洪水や土砂崩れなどで甚大な被害が生じています。これら激甚化する災害から私たちはどう身を守ればいいのでしょうか。
そうした際に役立つのが「ハザードマップ」。ことば自体知ってはいても、実際に見たことはない、どんなものかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
いざというときに自分たちの身を守り、被害を最小限に抑えるうえで大切なハザードマップについて、しっかり学びたいと思います。
お話しいただくのは、社会情報部 防災情報課の阿部さんです。さっそくうかがいましょう。
目次
プロフィール
話し手 阿部 直樹
株式会社パスコ 東日本事業部 社会情報部 防災情報課
都市計画GIS構築業務に従事後、広報室・企画本部・研究開発の業務を通じて災害時緊急撮影、災害対策本部対応に携わる。2016年より2019年まで国立研究開発法人防災科学技術研究所に出向。現在は防災情報課課長として、自治体におけるハザードマップ作成、防災アセスメント、地域防災計画改定業務などを担当。
聞き手 前谷 真鈴
地球の学校 編集部
ハザードマップの多さは「災害大国」日本ならでは
ハザードマップとは、どういったものですか?
ハザードマップとは、地震や台風、大雨などの自然災害が発生した際、その地域のどこにどんな災害リスクがあるのかを自治体ごとに記した地図のことです。災害の種類によって生じるリスクや被害の内容が異なるため、ハザードマップにはいくつかの種類があります。
どんな種類のハザードマップがあるのですか?
ひとことでいえば、自然災害の種類だけハザードマップがある、ということになります。
日本は台風や大雨の被害が多いので、水害に関するものだけでも、「洪水ハザードマップ」や「土砂災害ハザードマップ」のほかに、台風や低気圧に伴う海面上昇による浸水被害に備えた「高潮ハザードマップ」、ため池の氾濫によるリスクを記した「ため池ハザードマップ」があります。
また、地震には、建物の倒壊、火災、津波、土砂崩れ、液状化現象など、さまざまな災害リスクがあります。そのため、地震時の予想震度を表示した「震度被害(揺れやすさ)マップ」をはじめ、建物の倒壊や焼失リスクを記した「建物被害想定マップ」、液状化リスクを記した「液状化予測図」など、たくさんの種類がつくられており、それらをまとめて「地震ハザードマップ」と呼ぶことが多いですね。また、地震による津波被害が想定される地域では「津波ハザードマップ」があります。
このほかにも、日本は活火山が多いため、噴火の際のリスクを表した「火山ハザードマップ」もあります。さらに最近では、「内水ハザードマップ」の整備が進められています。
日本は台風や大雨の被害が多いので、水害に関するものだけでも、「洪水ハザードマップ」や「土砂災害ハザードマップ」のほかに、台風や低気圧に伴う海面上昇による浸水被害に備えた「高潮ハザードマップ」、ため池の氾濫によるリスクを記した「ため池ハザードマップ」があります。
また、地震には、建物の倒壊、火災、津波、土砂崩れ、液状化現象など、さまざまな災害リスクがあります。そのため、地震時の予想震度を表示した「震度被害(揺れやすさ)マップ」をはじめ、建物の倒壊や焼失リスクを記した「建物被害想定マップ」、液状化リスクを記した「液状化予測図」など、たくさんの種類がつくられており、それらをまとめて「地震ハザードマップ」と呼ぶことが多いですね。また、地震による津波被害が想定される地域では「津波ハザードマップ」があります。
このほかにも、日本は活火山が多いため、噴火の際のリスクを表した「火山ハザードマップ」もあります。さらに最近では、「内水ハザードマップ」の整備が進められています。
「内水」ですか? いったいどんな災害なのですか?
ここ何年か、ゲリラ豪雨といわれる突然の大雨が多くなっていると感じませんか? 都市部で比較的短時間に局所的な大雨が降ると、下水道や排水路などの排水能力を超えて地表にあふれ出し、道路や建物に浸水被害をもたらします。これが内水氾濫です。
マンホールから勢いよく水が噴き出しているニュース、見たことあります。
地球温暖化に伴う気候変動の影響ともいわれ、近年特に増えている水害です。最近では「線状降水帯」による集中豪雨が頻発するなどリスクが急速に高まっていることから、「内水ハザードマップ」は、いまどんどん整備が進められているところです。
ハザードマップは、防災・減災のための「転ばぬ先の杖」
いろいろなハザードマップがあることで、その場所がどんな被害を受けるリスクがあるのかあらかじめわかる、ということですね?
はい、そうです。災害が起きた際に想定される被害の内容や規模・範囲を事前に知ることができる、というのが、ハザードマップの大切な役割なんです。前もってどんなリスクがあるのかをきちんと知っていれば、避難時の持ち出し品の準備など日頃の備えも十分に行えます。
また、ハザードマップには、災害に応じた避難場所や避難経路も記されていますので、どこに逃げればいいのか、逃げるときにどこを通るのが安全かを知っておくことができ、万一の場合にも落ち着いて避難することができます。
また、ハザードマップには、災害に応じた避難場所や避難経路も記されていますので、どこに逃げればいいのか、逃げるときにどこを通るのが安全かを知っておくことができ、万一の場合にも落ち着いて避難することができます。
そうした知識を身につけておくことが、自分の身を守る、ということにつながるのですね。
はい。さらにハザードマップには、災害による被害をできるだけ抑えるために役立つ、さまざまな知識や情報も載っています。
まずは災害に備えた日頃の準備についてです。家族みんなで避難する場所や経路を確認するとともに、連絡をとりあう方法などを話しあっておけば、個々に避難しなければならないときも安心ですね。また、避難時の持ち出し品もそうですが、停電や断水に備えて少なくとも3日分ほどの水と食料品を備蓄しておくことが推奨されています。
地震への備えであれば、家具や冷蔵庫などをしっかり固定しておくことや、寝室にスニーカーやスリッパを用意しておくことなども大切です。洪水対策であれば、道路側溝や雨水枡(ます)が落ち葉やゴミでふさがれないよう普段から掃除することは、浸水被害の軽減につながります。
このようにハザードマップには、災害に備えるいろいろな知恵が掲載されていることも特徴です。
まずは災害に備えた日頃の準備についてです。家族みんなで避難する場所や経路を確認するとともに、連絡をとりあう方法などを話しあっておけば、個々に避難しなければならないときも安心ですね。また、避難時の持ち出し品もそうですが、停電や断水に備えて少なくとも3日分ほどの水と食料品を備蓄しておくことが推奨されています。
地震への備えであれば、家具や冷蔵庫などをしっかり固定しておくことや、寝室にスニーカーやスリッパを用意しておくことなども大切です。洪水対策であれば、道路側溝や雨水枡(ます)が落ち葉やゴミでふさがれないよう普段から掃除することは、浸水被害の軽減につながります。
このようにハザードマップには、災害に備えるいろいろな知恵が掲載されていることも特徴です。
なるほど。備えあれば憂いなし、ですね。
災害が発生しそうなとき、たとえば台風や大雨の接近が予想されるときなどは、天気予報だけでなく、気象庁の警報・注意報や自宅近隣の河川水位などの情報にも気をつけたいですね。災害が切迫した状況では、各自治体から「高齢者等避難」「避難指示」などの避難情報が出されます。そうした情報が出されたときに私たちがどんな行動をとるべきか、といったきわめて重要な情報も掲載されています。
法令にもとづいて自治体がハザードマップを作成
ハザードマップってそもそもどこでつくられているのですか?
ハザードマップは、私たちの安心安全な暮らしや社会を守るうえで欠かせないものです。そのため、ハザードマップの種類によってその根拠となる法令は異なりますが、各地域の防災を担う自治体が作成するよう定められています。
それだけ大切なもの、ということですね。
どこで入手できるのですか? 市役所などでもらうのですか?
どこで入手できるのですか? 市役所などでもらうのですか?
みなさんがお住まいの役所から個別に配布されているかと思いますが、手元に見当たらないときは、役所の窓口のほか、市民センターなどの公共施設で入手できる場合もあります。転居などの場合は、転入手続きの際に渡されるということが多いようですね。
最近ではホームページでハザードマップを公開している自治体も多いので、確認してみてください。ただ、停電になったときのことを考えれば、紙にプリントしておくことをおすすめします。自宅のある地域だけでなく、自分や家族の職場・学校のある自治体のハザードマップをチェックしておくというのも大切です。
また、国土交通省ではWEB上にハザードマップポータルサイトを設置しています。全国の自治体のハザードマップが簡単に検索・閲覧できるようになっていますので、ぜひ利用してみてください。
最近ではホームページでハザードマップを公開している自治体も多いので、確認してみてください。ただ、停電になったときのことを考えれば、紙にプリントしておくことをおすすめします。自宅のある地域だけでなく、自分や家族の職場・学校のある自治体のハザードマップをチェックしておくというのも大切です。
また、国土交通省ではWEB上にハザードマップポータルサイトを設置しています。全国の自治体のハザードマップが簡単に検索・閲覧できるようになっていますので、ぜひ利用してみてください。
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」はこちらから
それは便利ですね。
ところで、そのハザードマップ、どのようにつくられているのですか?
ところで、そのハザードマップ、どのようにつくられているのですか?
ハザードマップの土台といえるいちばん重要な情報は、災害ごとに想定される被害の範囲や程度の情報です。河川の氾濫であれば、浸水被害が想定される範囲やその深さの情報ですし、地震であれば、想定される揺れの強さと範囲を示す震度分布の情報、といったものです。
こうした情報は、河川や地盤などの地形情報をもとにしたシミュレーションにより、国や県が作成・提供しています。各自治体では、これらの情報と地図を組み合わせたうえで、避難場所や避難の際の危険箇所など、防災に関する情報を重ね合わせて作成しています。
こうした情報は、河川や地盤などの地形情報をもとにしたシミュレーションにより、国や県が作成・提供しています。各自治体では、これらの情報と地図を組み合わせたうえで、避難場所や避難の際の危険箇所など、防災に関する情報を重ね合わせて作成しています。
更新の頻度は決まっているのですか?
何年に一度更新する、といった決まりはありませんが、避難所や避難場所が変更されたなどの大事な情報が改定された場合などは、速やかに更新が行われています。
最近では、2021年の「災害対策基本法」改正の際、自治体が発令する避難情報の見直しが行われたのですが、「避難勧告」を廃止し「避難指示」で必ず避難するよう一本化する、といった改定があったため、全国的に更新が行われています。
最近では、2021年の「災害対策基本法」改正の際、自治体が発令する避難情報の見直しが行われたのですが、「避難勧告」を廃止し「避難指示」で必ず避難するよう一本化する、といった改定があったため、全国的に更新が行われています。
さまざまな工夫をこらしてわかりやすさを実現
自治体によってハザードマップに違いのようなものはあるのですか?
ハザードマップは、つくることそれ自体が目的ではなく、住民の方にきちんと読んでもらい、災害時にちゃんと役立ててもらうことが何よりも大切です。そのため自治体では、地域に暮らす住民の誰にとっても読みやすくわかりやすいハザードマップをつくるための、さまざまな工夫を行っています。
どういった工夫でしょうか?
たとえば、外国籍の方が多く暮らす地域では、外国語版を作成するだけでなく、写真やイラストを多用して内容が直感的に伝わるようにする。高齢者に向けて、大きめの文字やメリハリのあるデザインで読みやすさに配慮する、などです。また、色の見え方には個人差があるため、色覚の多様性にもとづいた配色を採用するなども、正確に情報が伝わるようにするために欠かせない取り組みですね。
そうした工夫やアイデアはさまざまですので、いろいろな自治体のハザードマップを見比べてみるのも面白いかもしれません。
そうした工夫やアイデアはさまざまですので、いろいろな自治体のハザードマップを見比べてみるのも面白いかもしれません。
よりよいハザードマップづくりのパートナーとして
確かな情報が正しく、そしてわかりやすく伝わることが大切なんですね。
そのためにはまず、ハザードマップの基盤である地図づくりの部分がポイントになってきます。私たちは日本全国の自治体向けに、公共施設や行政情報、地域情報などを地図にまとめて地域の住民の方のためにWEB上で公開する「わが街ガイド」を展開しているのですが、そうした場面で用いられる地理空間情報に関する技術を活かし、ハザードマップづくりのお手伝いを行っています。
地図を正しくつくるノウハウを活かしているということですか?
はい。また、大きな自然災害が発生した際に行う「災害緊急撮影」では、衛星画像や航空写真による被害状況の分析・解析を行っており、そうした分野で積み重ねてきた防災に関する知見も、より効果的なハザードマップづくりに役立てていければと思います。
パスコホームページ「災害緊急撮影」はこちらから
なるほど。いわば、ハザードマップづくりのパートナー、ですね。
そうですね。自治体によってはハザードマップ制作の段階で紙面構成や内容について地域住民と話しあう「ワークショップ」を開催したり、完成後に住民を招いて見方・使い方を解説する「住民説明会」を実施したりするのですが、そうした際のサポートを依頼されることも少なくありません。
ハザードマップを、災害を自分ごとにするきっかけに
わかりました。それでは最後に、ハザードマップを私たちの生活にどのように活用していけばいいか、教えてください。
ハザードマップはただ見ればいい、というものではありません。その情報をもとに「いざというとき、ひとりひとりが何をしなければいけないか」というのを考えることが大事です。
身のまわりにどんな危険があるのか。どこに逃げるのか。災害が起きたときを具体的にイメージして、自分のとるべき行動をしっかり考えてもらえれば、と思います。
そのためにはぜひ一度、避難所や、各家庭で決めた避難場所まで実際に歩いてみることをおすすめします。どこを通って、どれくらいの時間がかかるのかをあらかじめ知っておくことは、いざというときに大きな助けになるはずです。
事前の備えとして、非常持ち出し品や備蓄品の用意、家具や建物の防災対策などもできる限りたくさん実行することも大切です。ハザードマップを活用して正しい災害リスクを知り、防災・減災を自分ごととして考え、行動してもらえれば、と思います。
身のまわりにどんな危険があるのか。どこに逃げるのか。災害が起きたときを具体的にイメージして、自分のとるべき行動をしっかり考えてもらえれば、と思います。
そのためにはぜひ一度、避難所や、各家庭で決めた避難場所まで実際に歩いてみることをおすすめします。どこを通って、どれくらいの時間がかかるのかをあらかじめ知っておくことは、いざというときに大きな助けになるはずです。
事前の備えとして、非常持ち出し品や備蓄品の用意、家具や建物の防災対策などもできる限りたくさん実行することも大切です。ハザードマップを活用して正しい災害リスクを知り、防災・減災を自分ごととして考え、行動してもらえれば、と思います。
ありがとうございます。
災害への向きあいかたについて、とても大切なことを学びました。まずは、自分の住んでいる街のハザードマップについて調べることからはじめたいと思います。
阿部さん、どうもありがとうございました。
災害への向きあいかたについて、とても大切なことを学びました。まずは、自分の住んでいる街のハザードマップについて調べることからはじめたいと思います。
阿部さん、どうもありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
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