被災者の生活再建のためにできることとは?
読み終わるまで: 9分
今回のテーマは、「被災後、いち早く生活を立て直すには?」です。
災害、特に大規模な地震では建物の損壊・倒壊が相次ぎ、それまであたりまえだった日常が一瞬にして奪われます。2024年1月に発生した能登半島地震でも広範囲で甚大な被害が生じ、住むところを失ったたくさんの方々が長期にわたり不自由な暮らしを強いられています。
避難所で不安を抱えながら日々を過ごす被災者が一刻も早く生活を立て直すには、何が必要なのでしょうか。どんなサポートが求められているのでしょうか。
今回お話をうかがうのは、防災技術部の山田さんです。
目次
プロフィール
話し手 山田 哲也
株式会社パスコ 中央事業部 防災技術部 防災計画課
都市計画業務に従事後、消防・都市防災分野の業務を担当し、現在は防災関連部署の課長。平成28年熊本地震以降の大規模災害時には、空中写真などによる建物被害判読や画像解析、災害現場の現地調査を踏まえた検証に携わる。
聞き手 足立 那奈
地球の学校 編集部
生活再建の第一歩は「罹災(りさい)証明書」
万が一、住宅が被災したときは、政府や自治体からさまざまな支援が受けられるそうですね。
はい、自然災害で大きな被害が生じたときは、国や自治体による被災者支援の取り組みとして「被災者生活再建支援法」に基づく支援制度が適用され、生活基盤である住宅への被害に対して、被害状況に応じた支援金の給付などの公的支援を受けることができます。
また、生活基盤を再建できるまでの間、安全に生活できる場所の確保についても支援の対象となっています。
ただ、気をつけたいのは、こうした支援を受けるためには各自治体が発行する「罹災証明書」が必要になる、ということです。
また、生活基盤を再建できるまでの間、安全に生活できる場所の確保についても支援の対象となっています。
ただ、気をつけたいのは、こうした支援を受けるためには各自治体が発行する「罹災証明書」が必要になる、ということです。
罹災証明書ですか。それはどういうものですか?
罹災証明書とは、自然災害で住宅が被害を受けた場合、被災者の申請によって各自治体が被害状況の調査を行い、その調査結果に基づき全壊や半壊など被害の程度を認定・証明するものです。被災者が実際に住んでいた住宅が対象となります。持ち家かどうかは問わないので、賃貸住宅の居住者も申請できます。
なぜ罹災証明書が必要なのですか?
はい、先ほどお話しした被災者生活再建支援法では、受けた被害の大きさに応じて支援内容が決められているため、罹災証明書によって被害の程度と内容を認定・証明することが必要になっているのです。
この罹災証明書により、被災者生活再建支援金・義援金の給付をはじめ、税や公共料金などの減免・猶予、災害救助法に基づく応急仮設住宅への入居、住宅の応急修理制度など、生活再建に欠かせないさまざまな支援を受けることができます。
この罹災証明書により、被災者生活再建支援金・義援金の給付をはじめ、税や公共料金などの減免・猶予、災害救助法に基づく応急仮設住宅への入居、住宅の応急修理制度など、生活再建に欠かせないさまざまな支援を受けることができます。
罹災証明の申請には写真があるとベター
なるほど、罹災証明書ってとても大切なものなんですね。どうすれば発行してもらえるのですか?
被災者本人が、お住まいの自治体で申請します。その際、片づけや修理などを行う前に、建物の被害の状況や被害箇所がわかる写真を撮影していただくことをおすすめします。
被害状況の写真ですか? ショックでそれどころではないのではないでしょうか。被災したあとすぐ片づけたいという方も多いと思いますし。
そうですよね。ただ、被災直後の建物の状況がわかる写真があると、被害の状況や程度がひとめでわかるため、罹災証明書がスムーズに発行される場合がありますし、損害保険の請求などにも役立つなど、あとあとの手続きにも非常に有効です。状況がわかればいいので、スマホで撮影したものでも大丈夫です。
とはいえ、写真がなければ罹災証明書が発行されないということはありません。可能な範囲でかまいませんし、何よりも安全が第一ですので、危険な場所に入ってまで撮影するということは絶対に避けてください。
とはいえ、写真がなければ罹災証明書が発行されないということはありません。可能な範囲でかまいませんし、何よりも安全が第一ですので、危険な場所に入ってまで撮影するということは絶対に避けてください。
申請はいつまでに行えばいいのですか?
申請期限は自治体によって異なります。災害発生後1カ月と定めているところもあれば、2カ月、3カ月というところもあります。ホームページなどであらかじめ確認しておくのがいいでしょう。能登半島地震のように被害規模の大きい災害では期限が延長されることも多いですね。
大きな災害ほど罹災証明書の発行には時間がかかりがち
罹災証明書は被災者の生活再建に欠かせないことがわかりました。そうなると、少しでも早く発行してもらえるといいですね。
そうですね。でも、被害が大きい災害ほど罹災証明書の発行には時間がかかる傾向にあり、2016年の熊本地震では発行に1カ月以上かかった自治体もありました。
原因としては、自治体の調査員が実際に現地に足を運んで1軒1軒被害状況を調査するため、もともと非常に時間がかかるということがあります。大規模半壊や中規模半壊、半壊といった被害程度の判断には、被害を受けた屋内に立ち入って調査する必要があり、調査員の安全を考えるととりわけ慎重にならざるを得ません。
さらに、熊本地震は甚大な被害が広範囲におよんだため、必要な調査員を確保するのに難航したという事情もあります。もちろん、調査にあたる自治体職員自身が被災しているということも大きな要因でした。
原因としては、自治体の調査員が実際に現地に足を運んで1軒1軒被害状況を調査するため、もともと非常に時間がかかるということがあります。大規模半壊や中規模半壊、半壊といった被害程度の判断には、被害を受けた屋内に立ち入って調査する必要があり、調査員の安全を考えるととりわけ慎重にならざるを得ません。
さらに、熊本地震は甚大な被害が広範囲におよんだため、必要な調査員を確保するのに難航したという事情もあります。もちろん、調査にあたる自治体職員自身が被災しているということも大きな要因でした。
注目が集まる衛星画像・航空写真の役割
確かに、自治体の方々も被災地域の住民ですから、どうしても時間がかかってしまうのは、仕方がないことですね。
はい。そうしたこともあり、能登半島地震では迅速な罹災証明書発行のためのさまざまな取り組みが見受けられました。
たとえば、被害が大きかった輪島市の被災住宅の被害認定を、東京都などの職員が都庁にいながらにしてリモートで支援。送られてくる画像をもとに「全壊判定」を行いました。また珠洲市では、調査立ち入りが困難な地域を対象にドローンによる空撮が行われ、空撮写真をもとに明らかに全壊と判断できる住宅には全壊判定の罹災証明書を交付。これまでにない柔軟な対応をとりいれることで、発行業務のスピードアップにつながりました。
さらに国からも、大規模災害が発生した際、罹災証明書をはじめとする災害査定に要する時間を短縮し、被災自治体の負荷をさらに低減できるような方針が数多く示されはじめています。そのひとつが衛星画像や航空写真の活用です。
たとえば、被害が大きかった輪島市の被災住宅の被害認定を、東京都などの職員が都庁にいながらにしてリモートで支援。送られてくる画像をもとに「全壊判定」を行いました。また珠洲市では、調査立ち入りが困難な地域を対象にドローンによる空撮が行われ、空撮写真をもとに明らかに全壊と判断できる住宅には全壊判定の罹災証明書を交付。これまでにない柔軟な対応をとりいれることで、発行業務のスピードアップにつながりました。
さらに国からも、大規模災害が発生した際、罹災証明書をはじめとする災害査定に要する時間を短縮し、被災自治体の負荷をさらに低減できるような方針が数多く示されはじめています。そのひとつが衛星画像や航空写真の活用です。
具体的にはどういったことですか?
たとえば、水害が起きたときの浸水の判定では、以前は1軒1軒をまわって調べていました。これを、上空から撮影した写真で20軒、30軒という街区単位でチェックし、その四隅が明らかに浸水している場合はそのエリアはすべて浸水しているというような判断ができれば、非常にスピーディに調査が行えますよね。
また、先ほど珠洲市でのドローン空撮のところでもふれましたが、大きな災害のときは、甚大な被害を受けた地域には人が容易に近づけないということが多いものです。そうした場合でも、航空機や人工衛星を使って撮影した画像を使用することで、より迅速に被害状況を把握することができ、一刻も早く適切で効率的な支援につなげることが期待できます。
日本はいま、南海トラフ地震や首都直下地震という巨大地震の発生が懸念されています。もちろん起きてほしくはないですが、仮に南海トラフ地震が発生するとなると、九州から関東までその被害は途方もない範囲におよぶかもしれません。航空機による撮影がままならない状況も想定されるなか、一度に広範囲が撮影できる衛星画像の重要性は、さらに高まるのではないでしょうか。
また、先ほど珠洲市でのドローン空撮のところでもふれましたが、大きな災害のときは、甚大な被害を受けた地域には人が容易に近づけないということが多いものです。そうした場合でも、航空機や人工衛星を使って撮影した画像を使用することで、より迅速に被害状況を把握することができ、一刻も早く適切で効率的な支援につなげることが期待できます。
日本はいま、南海トラフ地震や首都直下地震という巨大地震の発生が懸念されています。もちろん起きてほしくはないですが、仮に南海トラフ地震が発生するとなると、九州から関東までその被害は途方もない範囲におよぶかもしれません。航空機による撮影がままならない状況も想定されるなか、一度に広範囲が撮影できる衛星画像の重要性は、さらに高まるのではないでしょうか。
衛星画像分析技術の今後に大きな期待
能登半島地震のとき、パスコでは衛星画像を活用していましたね。
はい。能登半島地震や2024年7月から8月にかけての梅雨前線による愛媛、山形、秋田の大雨被害など、大規模な自然災害の発生時には「災害緊急撮影」を実施しています。天候や時間、状況などの諸条件にあわせて、最適な手法で撮影・観測を行い、被災された各自治体や関係省庁に画像を提供するとともに、被害状況に関する判読・分析を加えてホームページで広く公開。社会貢献活動のひとつとして位置づけ、長年にわたって実施しています。
また、損保会社が行っている衛星画像を活用した保険金支払いへの取り組みなど、民間企業との協業も行っています。
また、損保会社が行っている衛星画像を活用した保険金支払いへの取り組みなど、民間企業との協業も行っています。
パスコホームページ「災害緊急撮影」はこちらから
人工衛星からの画像ってすごいですよね。
地表の様子を画像で把握することができる人工衛星(地球観測衛星)は主に2種類あります。ひとつは普通の写真と同じカラー画像がとれる人工衛星です。近年は解像度が上がってきており、道路の白線くらいの大きさのものが見わけられる30㎝解像度のものもあります。もうひとつはレーダー波を使用して観測する人工衛星で、モノクロ画像にはなりますが、夜間や雨天でも地表が撮影できるといった特長があります。用途・目的に応じてこのふたつを使いわけ、迅速な被害状況の把握に努めています。
災害対応だけでなく、いろいろな分野で利用できそうですね。
はい。森林や海洋などの環境保全、農業や土木・鉱業などの産業分野、都市計画など、さまざまなフィールドでも衛星画像を活用しています。
災害対応において航空機での撮影を実施している企業はほかにもありますが、衛星画像をここまで高度に活用しているところはありませんし、何よりそうした高精度なデータをもとに的確な判読・分析実績を数多く積み重ねてきたことが私たちの強みです。
自然災害が頻発し被害がますます甚大化しているいま、いざというときに備えて空間情報技術を日々磨き上げ、安全安心な社会づくりに貢献することが、空間情報事業者としての使命だと思います。
災害対応において航空機での撮影を実施している企業はほかにもありますが、衛星画像をここまで高度に活用しているところはありませんし、何よりそうした高精度なデータをもとに的確な判読・分析実績を数多く積み重ねてきたことが私たちの強みです。
自然災害が頻発し被害がますます甚大化しているいま、いざというときに備えて空間情報技術を日々磨き上げ、安全安心な社会づくりに貢献することが、空間情報事業者としての使命だと思います。
正しい知識と準備で日頃からの備えを
衛星画像分析の技術が、罹災証明発行の迅速化にもどんどん役立てられ、被災者の方々が一日でも早く笑顔を取り戻せるようになるといいですね。
それでは最後に、災害に備えて私たちが普段からできることがありましたら教えてください。
それでは最後に、災害に備えて私たちが普段からできることがありましたら教えてください。
日頃から、行政の支援策にはどんなものがあるのか、どうすれば支援が受けられるのか、正しい知識を得ておくことが大切です。多少なりとも知識があると、いざというときに役立つはずです。
そして、お住まいの地域のハザードマップを確認しておくこと。冊子やチラシで配布している自治体もありますし、ホームページでも手軽に見られますのでぜひ確認してみてください。
また、避難生活に必要なものを事前に準備しておくことや、地震に備えて家具の転倒防止対策を講じるなども大切。災害への備えはし過ぎるということはありません。
そして、お住まいの地域のハザードマップを確認しておくこと。冊子やチラシで配布している自治体もありますし、ホームページでも手軽に見られますのでぜひ確認してみてください。
また、避難生活に必要なものを事前に準備しておくことや、地震に備えて家具の転倒防止対策を講じるなども大切。災害への備えはし過ぎるということはありません。
ありがとうございます。私もまずは、ハザードマップや自治体のホームページを確認してみます。
今回のお話の内容を知っているか知らないかで、被災後の不安もだいぶ変わってくると思います。山田さん、本日はありがとうございました。
今回のお話の内容を知っているか知らないかで、被災後の不安もだいぶ変わってくると思います。山田さん、本日はありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
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