環境保全

2025.01.14

脱炭素社会を実現するには? [前編]

温暖化を超え、いまや地球沸騰化時代
CO2排出をなくすにはどうしたらいい?

地球温暖化がとまりません。平均気温は年々上昇し、もはや「地球沸騰化」といわれるほど。主な原因は、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料で発電する際に排出される二酸化炭素CO2ですが、温暖化対策が議論される一方で排出量は増加の一途をたどっています。CO2排出ゼロをめざす「脱炭素」を実現させない限り、地球の未来はありません。
そこで大きな役割を担うのが、太陽光、水力、風力、地熱など自然の力を利用する「再生可能エネルギー」です。その名のとおり枯渇することなく繰り返し利用できるエネルギーで、発電の際にCO2を排出しないため、脱炭素社会をめざすうえでの切り札ともいわれています。
なかでも、いま日本で特に大きな期待を集めているのが「洋上風力発電」です。持続可能な社会を実現するためにも、再生可能エネルギーと洋上風力発電について、しっかり学びたいと思います。
お話しいただくのは環境文化コンサルタント事業部のお三方。事業推進部の濱本さん、環境技術部の都築さんと徳弘さんです。

目次目次

プロフィール

4人集合
写真右から 濱本、徳弘、都築、樋口

話し手 濱本 大地

株式会社パスコ 環境文化コンサルタント事業部 事業推進部 環境事業推進課

前職は環境分野における分析・海洋調査の技術職。2021年にパスコに入社した後は、環境案件における技術営業支援や企画に従事し、主に洋上風力関連の案件形成を担当。現在は環境事業推進課の係長。

話し手 都築 純        

株式会社パスコ 環境文化コンサルタント事業部 環境技術部 技術一課

2014年パスコ入社。主に海域の環境アセスメント業務に携わったのち、現在は再生可能エネルギー導入に向けた調査業務、適地選定業務に従事。

話し手 徳弘 ほのか       

株式会社パスコ 環境文化コンサルタント事業部 環境技術部 技術一課

2022年パスコ入社。主に再生可能エネルギーにかかわる環境アセスメント業務に従事。


聞き手 樋口 沙紀子                

地球の学校 編集部

日本の再生可能エネルギー導入は始まったばかり

樋口
日本ではいま、再生可能エネルギーはどのくらい使われているのでしょうか?
濱本
資源エネルギー庁の発表によると、2021年度の国内の総発電量のうち、再生可能エネルギーによる発電量は20.3%です。その内訳は太陽光8.3%、水力7.5%、バイオマス3.2%、風力0.9%、地熱0.3%となっています。発電量の1/5が再生可能エネルギー、というとかなりの割合に聞こえるかもしれませんが、世界的にみれば決して高くはなく、まだまだこれから、といったところです。
再生可能エネルギー先進地域といわれる欧州では、スペインで46.3%、イタリアで40.3%、イギリスとドイツで39.6%と軒並み高く、EU全体でも37.1%と高い導入率を示しています。
樋口
日本の約2倍ですね。どうして日本は導入率が低いのですか?
濱本
日本は国土が狭いうえに、平坦な地形が少ないという地理的な制約があります。再生可能エネルギーの発電設備を設置するには広い土地が必要です。平地が少なければ設置場所が限定されますし、山地を設置に適した土地へと造成・改変するにしても、そのぶんコストが大幅にふくらみます。こうした理由からなかなか導入が進まないというのが実状です。

濱本さん

樋口
なるほど。でも、日本より国土が狭いイギリスは導入率が高いですね。どうしてですか?
都築
要因のひとつが洋上風力発電の普及です。洋上風力発電は1991年にデンマークで初めて実用化され、以来、欧州諸国で積極的に導入されてきました。理由としては、偏西風の影響で安定して強い風が吹いていること、比較的遠浅の海が広がっているために発電設備の設置が容易なことなどがあげられます。
とりわけ四方を海に囲まれたイギリスで導入が進み、いまでは再生可能エネルギーの1/4を占めるほど。2030年にはイギリス全家庭に供給できる電力をまかなえるようになるまで、洋上風力発電を拡大することを目標に掲げています。
海外の洋上風力
欧州は洋上風力発電の導入でも世界をリード

日本で洋上風力発電が選ばれる理由とは

樋口
同じ島国のイギリスと日本。いま日本で洋上風力発電が注目されている理由は、そのあたりにあるのでしょうか?
徳弘
そうですね。日本で洋上風力発電を行うことには、たくさんのメリットがあります。
何よりも、四方の広い海を使えるので、国土が狭い・平地が少ないという地理的制約は受けません。日本の国土の面積は世界で61番目ですが、排他的経済水域(EEZ)を含めた海域面積は世界第6位。この広い海域を電力資源として有効に活用できます。
また、もともと昼夜を問わず発電できる風力発電は、ほかの再生可能エネルギーに比べて発電効率が高いのですが、洋上は陸上よりも強い風が安定して持続的に吹く場所が多いうえに、周囲に障害物となる地形がないため、より効率的に発電できます。
さらに、広い海上を活かして発電設備の大型化や大規模化をはかることで、事業効率を高めつつ低コストを実現することも可能です。将来性あふれる分野といえます。
樋口
国としても導入を推進しているのでしょうか?
濱本
はい。2019年に施工された「再エネ海域利用法※1」により、洋上風力発電事業への参入を促進し、スムーズで適切な事業化を推進するための取り組みが進んでいます。
国はいま、日本全体の洋上風力発電の発電容量※2を、2030年までに10GW(ギガワット)、2040年までに30〜45GWに増やすことを目標に掲げています。30GWというと大型の火力発電所30基分に相当する容量ですので、かなり意欲的な目標数値といえるでしょう。
※1 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律
※2 案件ベースの目標値
日本の洋上風力
日本でも洋上風力発電の導入は着々と進行中
樋口
それだけ洋上風力発電が期待されているんですね。
都築
洋上ではより大型化が進み、最近では、日本初の8MW(メガワット)の大型風車を採用した国内最大級の発電所が商用運転を開始するなど、導入拡大の動きは着実に進行しています。
また、2024年には、発電設備の設置対象海域を広げるための法律も閣議決定されました。これに伴い、海岸から離れた水深の深い海域でも設置できるよう、風車を設置した構造物を海上に浮かべて海底に係留する「浮体式」の実用化に向け、官民をあげた技術開発も進められています。

導入には場所選びが課題?

樋口
ここまで聞いて、メリットが多いように感じますし、今後ますます導入が進んでいきそうですが、課題もあったりするのでしょうか。
徳弘
新しい分野だけに、いろいろと配慮しなければならないことは多いですね。
洋上風力発電は非常に大規模な設備です。大きなものですと風車の直径が200mにもなる構造物を洋上に何基も設置するのですから、工事も大がかりですし、クリアしなければならないことがたくさんあります。

徳弘さん

樋口
具体的にどんなことでしょうか?
徳弘
大きくわけると、「適した場所を選ぶこと」「環境への影響を調査すること」「事業に関わる人々の合意を形成すること」の3つがあげられます。
都築
場所選びについては、自然の力を利用する以上、どこにでもつくれるわけではありませんし、巨額な費用を要する一大プロジェクトですから、事業性も非常にシビアに問われます。さまざまな要件を勘案したうえで洋上風力発電に適した場所を選び出すこと、それがはじめの一歩ですね。
徳弘
環境や生態系への影響も大きいです。大型の構造物を設置することで潮の流れや海流、波の高さが変わったり、風の向きや強さが変化したりといった、海の自然現象(海象)に対する影響です。海流が変わることで海底の地形が変わることもあるんです。
濱本
そして、その海域を利用している方々の事業や生活への影響です。
漁業に携わっている方、釣りなどのレジャーで利用する方、観光業に従事している方、そして沿岸に住んでいる方々など、きわめて幅広い範囲での影響を考慮しなければなりません。
樋口
3つのポイントに、普及が進んでいくかどうかのカギがありそうですね。
ここまで、地球沸騰化の時代に挑む世界各国の状況から、日本の取り組み、洋上風力発電導入のメリットとクリアしなければいけない課題をお聞きしました。
そしてやっと、実現に向けたスタートラインに立ったところです。
このあとの後編では、洋上風力発電導入をめぐる想像を超える数々の取り組みについて、詳しくお話をうかがいます。どうぞご期待ください。

 後編はこちら 

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