物価高騰の原因は物流にもあった? その背景とは
必要な場所や人へモノを届ける「物流」は、私たちの生活を支え、社会を動かす重要なインフラです。最近では、物価高騰の背景として、世界的な燃料価格の上昇などの物流コストの上昇が指摘されています。
なぜそのようなことが起きているのでしょうか。また消費者として、私たちには何ができるのでしょうか。
今回お話を伺うのは、システム事業部の井手さんです。
目次
プロフィール
話し手 井手 修平
株式会社パスコ システム事業部
2005年のパスコ入社後、民間企業向けに事業を展開するシステム事業部に配属。物流分野などの営業職を経て、現在は営業統括部長。物流システムの企画・開発のプロジェクト責任者を務める。
聞き手 大垣 志織
地球の学校 編集部
そもそも物流って? モノの価格に与える影響
最近日用品の値上げをひしひしと感じます。これに物流が関係しているって本当ですか?
本当です。
みなさんが感じているように、ここ数年、色々なものが値上がりしました。自動販売機でペットボトルの飲料を買おうとすると、今は180円とか200円くらいすることもありますよね。
みなさんが感じているように、ここ数年、色々なものが値上がりしました。自動販売機でペットボトルの飲料を買おうとすると、今は180円とか200円くらいすることもありますよね。
以前は、安いところでは80円くらいで売っているのも見たことがありました。
そうですよね。一般的なメーカーでは100円とか120円くらいだったと思います。それがいまでは180円くらいになっています。食料品・飲料業界全体でも、2024年の1年間で非常に大きく値上がりしました。
これにはさまざまな要因があります。円安の影響も大きいですし、国外での原料争奪戦が激化してきている面もありますが、物流費の高騰もそのうちの一つです。
ところで「物流」というと、日頃から利用している宅配便を思い浮かべると思いますが、実は宅配便の物量は全物流に対して約5%強と言われているのをご存じですか?
これにはさまざまな要因があります。円安の影響も大きいですし、国外での原料争奪戦が激化してきている面もありますが、物流費の高騰もそのうちの一つです。
ところで「物流」というと、日頃から利用している宅配便を思い浮かべると思いますが、実は宅配便の物量は全物流に対して約5%強と言われているのをご存じですか?
知りませんでした。宅配便のトラックだけでも街でたくさん見かけるのに、全体の1割にも満たないんですね。残りの9割は何でしょうか?
残りの9割は、原材料が加工され私たち消費者の手元に届くまでの企業間の物資のやり取りです。
そもそも「物流」とは、原材料を産地から工場などへ運び、そこで加工した製品を倉庫で保管、商品を発送するための梱包などの作業、さらにコンビニやスーパーなどの集配センターへ運び、また保管します。そこから各店舗にお届けすることで初めて、お店に商品が並ぶ、この一連の流れすべてのことを言います。
物価高騰の背景には、燃料費や人件費の高騰などが、この一連の流れに対して大きな影響を与えていることがあるのです。
そもそも「物流」とは、原材料を産地から工場などへ運び、そこで加工した製品を倉庫で保管、商品を発送するための梱包などの作業、さらにコンビニやスーパーなどの集配センターへ運び、また保管します。そこから各店舗にお届けすることで初めて、お店に商品が並ぶ、この一連の流れすべてのことを言います。
物価高騰の背景には、燃料費や人件費の高騰などが、この一連の流れに対して大きな影響を与えていることがあるのです。
商品は多くの手を経て私たちの元へ
私たちが手にする商品一つをとっても、多くの人や輸送手段が関わっているのですね。
そうです。もう少し詳しく説明します。たとえば、日本ではほぼ100%輸入に頼っている、コーヒー豆。ブラジルで採れたコーヒー豆が日本に輸入されるまでには、まず現地でコンテナに入り、コンテナ船などで運ばれてきます。その時点で、円安により費用が上がります。燃料費も世界的に上がってきています。
日本で陸上げ後、国内メーカーの工場に届けられ、商品が作られます。それをメーカーの工場近くにある倉庫で維持管理・保管します。当然、倉庫の保管代やそのためのシステム費、人件費もかかってきます。
日本で陸上げ後、国内メーカーの工場に届けられ、商品が作られます。それをメーカーの工場近くにある倉庫で維持管理・保管します。当然、倉庫の保管代やそのためのシステム費、人件費もかかってきます。
とてもたくさんの工程を経ているのですね。
それで終わりではありません。次に店舗や通販などで販売するために、さまざまな輸送手段を用いて小売のセンターや問屋に納めます。そこでも保管するので、人件費や保管代などさまざまな原価が発生します。
そうして各店舗に届けられ、店頭などに並ぶことで、やっと消費者が手にすることができるのです。これらすべての輸送・配送の動きに対して、人件費や燃料費の高騰が影響しています。
そうして各店舗に届けられ、店頭などに並ぶことで、やっと消費者が手にすることができるのです。これらすべての輸送・配送の動きに対して、人件費や燃料費の高騰が影響しています。
物流のさまざまな工程でコストが少しずつ上がっているから、全体として物価に跳ね返っているということですか?
その通りです。
一方で、倉庫などの領域ではデジタル化やロボットなどの導入により自動化が急速に進んでいます。しかし、トラックで荷物を運ぶことについては、一定の自動化が進んだとしても、やはり人が介在しないといけないというのが現状です。
一方で、倉庫などの領域ではデジタル化やロボットなどの導入により自動化が急速に進んでいます。しかし、トラックで荷物を運ぶことについては、一定の自動化が進んだとしても、やはり人が介在しないといけないというのが現状です。
日本の物流には、課題が満載
日本は少子高齢化で人口がどんどん減少してきているので、物量そのものは減ってきています。かつて物が大量に売れた時代には、大型トレーラーにフル積載していましたが、物量が減ったことで、1回に積む荷物の量、つまり積載率が下がっているのです。
現在、日本のトラックの平均積載率がどれくらいかご存じですか?
現在、日本のトラックの平均積載率がどれくらいかご存じですか?
80%くらい、でしょうか?
実は、国内のトラック輸送における平均積載率は、約40%と言われています。
物量が減っていることに加え、都市への人口の一極集中が進んでいることで、行きと帰りで積載率に大きな差が出ています。そのため、東京など人口が集中しているエリア、つまり巨大消費地に向かうトラックの積載率は100%ですが、逆はほとんど積まずに帰ることになるのです。
この積載率をいかに上げていくかが重要な指標の一つになっています。
物量が減っていることに加え、都市への人口の一極集中が進んでいることで、行きと帰りで積載率に大きな差が出ています。そのため、東京など人口が集中しているエリア、つまり巨大消費地に向かうトラックの積載率は100%ですが、逆はほとんど積まずに帰ることになるのです。
この積載率をいかに上げていくかが重要な指標の一つになっています。
平均すると、トラックの荷台の半分以下しか積まれていないと考えると、もったいない気がしますね。
そうですね。さらに、インターネット通販市場の拡大に伴い、企業間においても小口の配送が増えています。従来は大口の取引先への配送が主でしたが、中小企業や新興企業からの取引が増加し、配送先が多様化しています。抱える在庫を最小限に抑えるため、少量の荷物を多頻度で配送するといったニーズも増加し、物流企業の負担は増える一方です。
もう一つ問題があって、いわゆる「2024年問題」。皆さんもお聞きになったことがあるかもしれません。
もう一つ問題があって、いわゆる「2024年問題」。皆さんもお聞きになったことがあるかもしれません。
はい、耳にしたことがあります。
物流業界は、今まで労働時間の上限の設定がなく、ドライバーは稼ぎたければ、大きなトラックで遠方に行って戻ってくるという、長時間の運転によって売上を稼いでいました。
しかし2024年4月、働き方改革関連法の改正に伴い、法律で労働時間に上限が設定されました。これにより生じているさまざまな問題が、いわゆる「2024年問題」です。そのため、現在は長時間の運転ができなくなっています。
また、物流業界は多重構造になっていて、三次・四次の下請けが珍しくありません。そうなると下請けの会社では採算が合わず、そこで働く人たちの給料も上がらないという状況が生まれてしまいます。それでは、ドライバーの採用は難しいですよね。
しかし2024年4月、働き方改革関連法の改正に伴い、法律で労働時間に上限が設定されました。これにより生じているさまざまな問題が、いわゆる「2024年問題」です。そのため、現在は長時間の運転ができなくなっています。
また、物流業界は多重構造になっていて、三次・四次の下請けが珍しくありません。そうなると下請けの会社では採算が合わず、そこで働く人たちの給料も上がらないという状況が生まれてしまいます。それでは、ドライバーの採用は難しいですよね。
物流の要であるドライバー人材が不足するなんて、今後の物流に大きく影響しそうですね。
早くて正確な物流を維持する、デジタル技術
これらの問題を解決するには、どうしたらいいでしょうか?
そうした課題解決のために注目されているのが、デジタル技術の活用です。例えば大型スーパーの物流倉庫から複数ある店舗へ配送するルートは、どのように計画を立てているかわかりますか?
正直、考えたこともありませんでした。誰かが荷物の量などからルートを考えているのでしょうか?
そうなんです。そうした計画を立てるために、「配車マン」と呼ばれる人がいます。道路の条件や車格、時間指定、荷物の積み下ろし時の制約など、さまざまな条件を加味し、効率的に配送できるルートを考え、計画を立てるのが配車マンの仕事です。
配車マンが過去の経験に基づき、荷主さんからいつ届けてほしいという要望などを考慮した上で、配送ルートやそれに使うトラックの台数などを決めた、「配送計画」を作っています。
配車マンが過去の経験に基づき、荷主さんからいつ届けてほしいという要望などを考慮した上で、配送ルートやそれに使うトラックの台数などを決めた、「配送計画」を作っています。
見えないところから物流を支える、重要なお仕事なんですね!
配車マンになるには相当な知識と経験が必要なのではないですか?
配車マンになるには相当な知識と経験が必要なのではないですか?
はい。そのため、配車マンの育成には時間がかかります。責任の大きい仕事でもあり、労働時間も長くなってしまいます。そのため、ドライバーだけでなく、配車マンも人材不足になっているのです。
ここにデジタル技術を活用することで、配送先の場所と位置関係を正確に把握し、より効率的な配送計画を作ることができます。配車マンが持つ経験値に加え、そこに向かうまでの高速道路や一般道路などを含めた制限速度や、時間帯ごとの渋滞予測に基づく速度なども、データに基づき的確に反映できます。
この結果、配車マンの負担が軽減されるのはもちろん、人材の早期育成にもつながります。より最適な配送ルートが組めるので、ドライバーの負担軽減にもなります。
ここにデジタル技術を活用することで、配送先の場所と位置関係を正確に把握し、より効率的な配送計画を作ることができます。配車マンが持つ経験値に加え、そこに向かうまでの高速道路や一般道路などを含めた制限速度や、時間帯ごとの渋滞予測に基づく速度なども、データに基づき的確に反映できます。
この結果、配車マンの負担が軽減されるのはもちろん、人材の早期育成にもつながります。より最適な配送ルートが組めるので、ドライバーの負担軽減にもなります。
デジタル化が進むと、メリットがたくさんありますね!
また、2024年の法改正により、トラックドライバーは運転できる時間に制約が付きました。もし福岡から東京まで荷物を運ぼうと思ったら、どうすればいいと思いますか?
そうですね......2名のドライバーが交代で運ぶ、とかですか?
それも一つの手ですが、船や鉄道などを使った輸送手段もあります。
ここにもデジタル技術を活用することで、到着までにかかる距離や時間、荷物の大きさや量、コストなどの条件から、最適な輸送手段で商品をお届けすることができるのです。
ここにもデジタル技術を活用することで、到着までにかかる距離や時間、荷物の大きさや量、コストなどの条件から、最適な輸送手段で商品をお届けすることができるのです。
なるほど、トラック以外の輸送手段を使うのですね。
日本の物流は、そのスピード感や正確性から、世界的にも高いサービス品質を誇っています。まさに、物流企業の努力の賜物です。
しかし、誰かが無理をしていては、いつか必ず破綻します。これからもしっかりと維持できるよう、最善の方法を考えていきたいですね。
しかし、誰かが無理をしていては、いつか必ず破綻します。これからもしっかりと維持できるよう、最善の方法を考えていきたいですね。
安定した物流を維持するために、私たちにできること
さまざまな課題があるということが、お話を聞いてよくわかりました。今後、物流業界はどのように変わっていくのでしょうか?
少なくとも、変化していかなければ、これまでの安定的な物流を維持することは難しくなっています。
そのためには、残念ですが値上げは受け入れるしかありません。いかに安定的に配送できる状態を維持していくかを考えると、お金はかかるのです。倉庫は自動化によって最もコストがかかる人件費を抑えられます。しかし配送においては、トラック10台を走らせたら10台分の、10時間走らせたら10時間分の人件費がかかるのです。
それから「送料無料」は存在しないことも理解しましょう。実際には売価に含まれているか、誰かが泣いているかもしれません。「タダ」はあり得ないのです。
即日配送や時間指定などの配送条件の緩和・撤廃なども、進んでいくのではないでしょうか。
そのためには、残念ですが値上げは受け入れるしかありません。いかに安定的に配送できる状態を維持していくかを考えると、お金はかかるのです。倉庫は自動化によって最もコストがかかる人件費を抑えられます。しかし配送においては、トラック10台を走らせたら10台分の、10時間走らせたら10時間分の人件費がかかるのです。
それから「送料無料」は存在しないことも理解しましょう。実際には売価に含まれているか、誰かが泣いているかもしれません。「タダ」はあり得ないのです。
即日配送や時間指定などの配送条件の緩和・撤廃なども、進んでいくのではないでしょうか。
つい、送料無料を選んでしまいがちですが、きちんと背景を理解したいと思います。
これからの物流のために、私たちにもできることはありますか?
これからの物流のために、私たちにもできることはありますか?
最初に宅配は全体の5%強とお伝えしましたが、近年はインターネット通販の増加により、個人宅への宅配も増えています。これに伴い、再配達が増加し、さらにドライバーの負担が増えています。一人ひとりが再配達をしないよう気をつけていただくだけでも、ドライバーの負担軽減につながります。
たしかにそうですね。
効率的で持続可能な物流のために、私も再配達はしないように気をつけたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。
効率的で持続可能な物流のために、私も再配達はしないように気をつけたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。
ありがとうございました。
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