
自治体業務のDX化で、私たちの暮らしが便利になる?
「役所での手続きは、実際に窓口に出向かなくては」。まだそう思われている方は多いのではないでしょうか? 実はいま、自治体業務のDXが急速に進んでおり、一部の手続きがいつでもどこでもオンラインでできたり、Webの窓口予約でスムーズに受付できたり、利便性が向上しています。
「DX」とは、情報のデジタル化にとどまらず、それを有効活用して新たな価値を生み出すことです。国や各自治体が進める「自治体DX」は、手続きを便利にするだけでなく、地域社会のさまざまな課題を解決し、私たちの暮らしそのものがより便利で快適になることにつながるといいます。東京支店の飯塚さんにうかがってみましょう。
目次
プロフィール
話し手 飯塚 裕司
株式会社パスコ 東日本事業部 営業一部 東京支店 営業一課
広告関係の営業を経て、2013年にパスコに入社。長野県内、静岡県内の自治体へ、営業としてさまざまな企画提案を行ってきた。2022年より東京都内の自治体へ向け、デジタル技術を活用した業務改善等の企画提案を行っている。
※所属は2025年3月時点のもの
聞き手 川村 沙紀
地球の学校 編集部
進む自治体DX 押印廃止は15,000件!

1年前に引っ越しをしたのですが、転入の手続きに行くときオンラインで予約ができて便利でした。こうした動きは進んでいるのですか。

はい。実は最近、自治体の窓口のデジタル化がかなり進んでいて、さまざまな手続きがオンラインでできるようになっています。マイナンバーカードを使って転出届をインターネット経由で提出したり、コンビニで住民票を取得できたりします。これまで窓口での現金払いが当たり前だった納税も、オンラインでのキャッシュレス納付ができるようになりました。


役所に行かずに手続きを済ませられるのは、とても助かりますね。

役所は平日の日中しか開いていないことが多いので、その時間帯に働いている人にとって、必ずしも便利ではありませんでした。デジタル化によって、利用者の方がいつでもどこでも行政手続きを行えるようになってきています。
デジタル化のメリットはそれだけではありません。「2040年問題」という言葉を聞いたことはありますか?
デジタル化のメリットはそれだけではありません。「2040年問題」という言葉を聞いたことはありますか?

いいえ、初めて聞きました。どういうものですか?

高齢者人口の増加やインフラの老朽化により、行政業務の負担が増える一方、労働人口が減少し、2040年ごろ、それに対応する職員が不足するという問題です。この課題解決に、デジタル技術の活用が期待されています。
実は、役所の業務は法律でかなり細かく規制されています。デジタル化に対応できるよう、国でも規制緩和を進め、便利な技術をさらに活用していこうとしています。
実は、役所の業務は法律でかなり細かく規制されています。デジタル化に対応できるよう、国でも規制緩和を進め、便利な技術をさらに活用していこうとしています。

私たちが知らないところでも、自治体DXが進んでいたんですね。規制緩和の具体的な例はありますか?

たとえば、各種書類の押印廃止です。ニュースにもなっていたので聞いたことがある方も多いと思います。約15,000件にのぼるともいわれる押印義務が廃止されたことで、転出届もオンラインで提出できるようになったのです。

15,000件も? すごい数ですね。

ほかには、従来は窓口でのみ公開していた紙の台帳のデジタル化などもあります。たとえば、建設や開発、不動産業などに従事する方々が活用している「道路台帳」。道路の幅や構造がわかる地図図面です。これまでは、道路管理者が紙で管理し、各自治体の役所などの窓口で申請して閲覧していたのですが、デジタル化が進んだことで、インターネットで簡単に見ることができるようになってきました。利用者の利便性が向上すると同時に、対応する職員の省力化にもつながっています。

地方創生で自治体のデジタル化を財政支援

そういえば、最近別の市に引っ越した友人にオンラインの窓口予約の話をしたら、「私はできなかった」と言っていました。自治体によってばらつきがあるのでしょうか。

実際、デジタル化への取り組みには多少なりとも差があるようです。大きな要因としては財政面です。システムを導入するためのお金と、その準備をすすめる人材、それに時間も必要です。
自治体によって抱える課題はさまざまです。財政規模や職員数にも限りがあるため、デジタル化への取り組みがなかなか進められないという自治体もあります。
自治体によって抱える課題はさまざまです。財政規模や職員数にも限りがあるため、デジタル化への取り組みがなかなか進められないという自治体もあります。

デジタル化は進めたいものの、なかなか難しい状況なんですね。

そうなんです。このままにしておくと地域間の格差が広がってしまいます。そのため、国はデジタル社会の実現を目指し、さまざまな施策を講じています。その一環として、「地方創生」の観点から、自治体に対して財政支援などを行っています。こうした取り組みから、2027年度までに1,500団体で地域課題の解決にデジタル技術を実装させることを目標としています。

国からの支援があるんですね。具体的に、どんな取り組みがありますか?

たとえば、オンラインでの医療サービスの提供、ロボットやドローンを使った配送、農作業の支援などがあります。窓口の来庁予約もそのひとつです。それぞれの自治体の課題にあわせて、さまざまな場面でのデジタル化が進められています。


デジタル技術でいろんなことが便利になるんですね! でも、マイナス面やデメリットなどはないのでしょうか?

自分の個人情報は守られるのかといった、デジタル化にともなうセキュリティ面の不安を指摘する声はよく耳にします。そうした声にも丁寧に対応し、住民の方の不安を解消する方法などを検討したうえで導入されています。
また、年代によるデジタル格差の問題もあります。スマホの使いかた教室を自治体が開催したり、オンライン手続きも職員が操作を支援したりするなど、誰も取り残さない取り組みも進められています。
また、年代によるデジタル格差の問題もあります。スマホの使いかた教室を自治体が開催したり、オンライン手続きも職員が操作を支援したりするなど、誰も取り残さない取り組みも進められています。
官民の情報を組み合わせ、社会課題の解決に活かす

デジタル化といえば、最初に「ペーパーレス化」が思い浮かびます。先ほど教えていただいた台帳のデジタル化もそうですが、データにすると探したい情報がすぐに見つかるなど、便利になりますよね。

そうですよね。自治体でも、紙で管理されていた情報のデジタル化が進み、どんどん便利になっています。でも、ただデジタル化しているだけではないんです。
「オープンデータ」の取り組みはご存じでしょうか。
「オープンデータ」の取り組みはご存じでしょうか。

オープンデータ、ですか。それは何ですか?

オープンデータは、国や自治体が保有しているデータを、誰でも自由に使えるように公開していく取り組みのことです。二次利用、つまり加工や編集ができて、許可を取ることなく商用利用してもいいという前提で公開されています。たとえば、企業や団体、教育機関などが、従来のアプリに組み込んで自由に使うことも可能です。その結果、新たなビジネスの創出や、経済の活性化にもつながります。

国や自治体のデータを、民間企業が商用で自由に使えるのですか? ちょっと驚きですね。

気づいていないだけで、実はすでにさまざまな形でオープンデータが使われています。たとえば、住まい探しをするときに不動産情報サイトを見ると思いますが、最近では家や駅の位置に加えて、洪水時の浸水リスク情報(浸水想定区域)が掲載されているものがあります。あれも、国や自治体が公開しているオープンデータから引用しているものです。

引っ越し先を探すときに利用しました! オープンデータのひとつだったのですね。場所選びの決め手となる重要な情報だったので、とても助かりました。

ほかにも、子育てアプリに掲載されている公共の子育て施設の情報や、地図アプリや乗り換え案内で出てくる市営バスの停留所・時刻表の情報なども、オープンデータから引用されているものがあります。


気づかないうちに、たくさんのオープンデータに触れていたのですね。

そうなんです。
こうした情報をオープンデータ化するのは、情報を保有しているそれぞれの自治体です。
しかし、自治体ごとに整備されている情報やデータの仕様にばらつきがあると、利用者としては非常に使いづらいですよね。
そのため国は、データフォーマットやオープンデータ化すべきデータを定義するなど、統一のルールを策定しました。これにより、オープンデータを活用しやすくしているのです。
こうした情報をオープンデータ化するのは、情報を保有しているそれぞれの自治体です。
しかし、自治体ごとに整備されている情報やデータの仕様にばらつきがあると、利用者としては非常に使いづらいですよね。
そのため国は、データフォーマットやオープンデータ化すべきデータを定義するなど、統一のルールを策定しました。これにより、オープンデータを活用しやすくしているのです。

使いやすくするための工夫もされているのですね。

これまで行政だけが持っていたデータを民間企業が活用することで、新しいサービスやソリューションの創出に繋がります。新たなビジネスチャンスが生まれる可能性など、多くの人々に利益をもたらすことが期待されています。
全国規模のDX! デジタル空間に日本の都市を再現

ここまで、国や自治体の保有するデータのオープン化についてお話ししましたが、全国規模の取り組みも進んでいます。
国土交通省等が進める「Project PLATEAU(プラトー)」をご存じですか。
国土交通省等が進める「Project PLATEAU(プラトー)」をご存じですか。

PLATEAUですか。どういったものですか?

デジタル空間上に3Dで日本の市や町などの都市を再現し(3D都市モデル)、オープンデータとして公開したり、ユースケースの開発を行ったりしている取り組みです。
これまで都市の情報は平面の地図で示されることが一般的でした。それに対して、3D都市モデルには、建物や地形などの立体的な情報に加え、たとえば建物の構造や階数、用途などの情報も付与されています。そのため、より高度で的確な都市計画などへの活用が期待されています。
これまで都市の情報は平面の地図で示されることが一般的でした。それに対して、3D都市モデルには、建物や地形などの立体的な情報に加え、たとえば建物の構造や階数、用途などの情報も付与されています。そのため、より高度で的確な都市計画などへの活用が期待されています。

(https://plateauview.mlit.go.jp/)

たとえば、どんなことに使えるのでしょうか?

現実世界をデジタル空間上に再現することで、現実で起こり得ることをデジタル空間でシミュレーションできるんです。

デジタル空間でシミュレーション、ですか。なんだか未来感のある響きでかっこいいですね。具体的に、どういうことでしょうか?

たとえば、3D都市モデルに自治体が持っている街路灯や地元の商店会が持っている防犯カメラなどの情報を重ね合わせることで、夜間でも明るく安全な道やエリアを可視化することができます。他にも、まちづくり分野や防災分野など、幅広い場面での活用が期待されています。

(Sources: Esri, Airbus DS, USGS, NGA, NASA,CGIAR, N Robinson, NCEAS, NLS, OS, NMA, Geodatastyrelsen, Rijkswaterstaat, GSA, Geoland, FEMA, Intermap and the GIS user community, GSI, Esri, HERE, Garmin, Foursquare, GeoTechnologies, Inc, METI/NASA, USGS)

私たちの身近な生活にも活かされるんですね。3D化により、誰にでもわかりやすくなっている点もポイントですね。

国は2027年度までに、500都市の3D都市モデル整備を目標にしています。将来的には、全自治体の3D都市モデルを整備し、さまざまな分野で活用することを目指しています。
現実の日本と同じ都市がそのままデジタル空間上にできるので、活用の幅は無限にあると思います。現在、データ整備を進めると同時に、ユースケース開発を行い、その可能性を追求しているところです。先ほどお話したオープンデータや、民間企業が保有しているデータなど、さまざまなデータを重ね合わせることで、PLATEAUの意義や活用の幅が広がっていくのだと思います。
現実の日本と同じ都市がそのままデジタル空間上にできるので、活用の幅は無限にあると思います。現在、データ整備を進めると同時に、ユースケース開発を行い、その可能性を追求しているところです。先ほどお話したオープンデータや、民間企業が保有しているデータなど、さまざまなデータを重ね合わせることで、PLATEAUの意義や活用の幅が広がっていくのだと思います。
Project PLATEAUについて解説した「パスコのプラトー特設サイト」はこちらから
デジタル化が実現する、誰もが便利な社会

お話をうかがって、国や自治体のさまざまなデジタル化の取り組みを知ることができました。
正直、「自治体のお仕事は、まだアナログ」というイメージがありましたが、時代に合わせた業務改革や情報公開が行われ、さまざまな分野で想像以上に活用が進んでいることに驚きました。
正直、「自治体のお仕事は、まだアナログ」というイメージがありましたが、時代に合わせた業務改革や情報公開が行われ、さまざまな分野で想像以上に活用が進んでいることに驚きました。

「自治体DX」というと、自治体職員の業務が便利になるだけに聞こえるかもしれません。しかし、職員の業務を効率化することで、そのぶん、市民生活に直接関わる業務にもっと時間を割くことができます。現在の行政サービスを維持することはもちろん、より良いサービスの提供につながるのです。行政サービスは我々の生活に直結しているので、自然と私たちの生活が便利で快適になると考えます。

こういったデジタル化の取り組みをもっと多くの人が知って活用していくことで、より便利な社会が実現していくのだと思いました!
貴重なお話をありがとうございました。
貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。
■関連リンク
自治体DXを推進するパスコの取り組み
○自治体業務支援地図システム PasCAL for LGWAN
○地図情報公開システム わが街ガイド
○施設予約システム
○市民投稿サービス PasCAL Voice
○地図デザインサービス Mappin' Drop
パスコでは自治体における3D都市モデルの導入を支援しています。
この記事をシェアする