災害時に大量発生する「がれき」をどうする?

災害時に大量発生する「がれき」をどうする?

大量のがれきの山が、復旧・復興の大きな障害に

地震や洪水などの大きな災害のとき、目に飛び込んでくる被災地の様子に心が痛みます。大災害で発生する廃棄物はあまりに大量で、その処理が進まないと元の生活を取り戻すことはできません。壊れた家や泥まみれになった家財道具。この積み上げられた「がれき」の山は、いったい誰がどうやって片づけるのか? 復旧・復興に向けた第一歩について、防災技術部の清田修さんと衛星ソリューション部の岡本淳さんにうかがいました。

プロフィール

清田氏

話し手 清田 修

株式会社パスコ 中央事業部 防災技術部 防災計画課

2017年中途入社。主に地域防災計画策定、防災アセスメント調査、ハザードマップ作成など、防災関連業務に従事。

岡本氏

話し手 岡本 淳

株式会社パスコ 衛星事業部 衛星ソリューション部 空間情報技術二課

2017年入社。衛星画像の販売業務に携わったのち、現在は主に衛星画像を活用した調査業務に従事。


足立氏

聞き手 足立 那奈

地球の学校 編集部

「がれき」を片づけなければ日常は戻らない

足立
地震や洪水が起きると、家が壊れたり浸水したりして住めなくなることもありますよね。帰る場所を失って避難所に身を寄せる人の映像を見ると、つらい気持ちになります。
清田
そうですよね。「令和6年能登半島地震」のときも、地震で倒壊した家の映像が報道されていましたね。半年後の夏には記録的な大雨で土砂崩れや川の氾濫も起こり、避難所生活がさらに長期化した人もいました。そういった方の苦労を思うと、心が痛みますよね。それに、いつ自分も同じように被災するかわかりません。
足立
体育館などでの集団生活は落ち着きませんし、体調を崩してしまう人もいますよね。
清田
そうなんです。避難所や仮設住宅での災害関連死も大きな問題になっており、一刻も早く元の生活を取り戻す必要があります。そのためには、まず、崩れた家や家財道具などの「がれき」を片づける必要があります。
倒壊建物
地震によって倒壊した建物
足立
復旧への第一歩ですね。
崩れた家や家財道具はどうやって片づけるのでしょう? 普通のゴミのように回収車で収集できるものではありませんし、壊れた建物は解体する必要もあります。自分でできる気がしないのですが......。
清田
災害で発生したがれきなどは「災害廃棄物」といって、ほかのゴミと同じように自治体が処理します。とはいえ廃棄物の量も大きさも、通常のゴミとは比較になりません。

さまざまな問題を引き起こす災害廃棄物

足立
大きな災害のとき、災害廃棄物はどのくらい出るんですか?
清田
たとえば能登半島地震の場合、推計で約240万トンの災害廃棄物が発生しています。これは、石川県の年間ごみ排出量の約7年分に相当します。「平成28年熊本地震」ではさらに多く、約311万トンも発生しました。
足立
7年分ですか......一度に処理するのは難しいですよね。災害廃棄物の処理が進まないと、どのような問題があるのでしょうか?
清田
まず、がれきで道路がふさがれることです。緊急車両が通れず、救助活動に支障が出ます。災害支援物資を届けることも困難になります。
また、悪臭や害虫の発生やカビなどによる感染症の発生など、衛生面の問題もあります。プロパンガスやリチウムイオン電池が発火すると、火災の発生につながります。経済活動も再開できないので、街の復旧・復興も遅れてしまいます。

急ぐべき廃棄物の処理は、遅れる一方

足立
災害廃棄物の処理が進まないと、さまざまな悪影響があるんですね。災害廃棄物はどんな流れで処理されるのですか?
清田
まず、被災現場の片づけをします。全壊・半壊した建物を解体し、使えなくなった家財道具などといっしょに「仮置き場」に移動させます。そこで可燃物や不燃物、金属くずなどに仕分けし、トラックや船で処理施設まで運んで焼却したり埋め立てたりすれば、処理は完了です。
処理フロー
災害廃棄物の処理フローのイメージ
石川県知事記者会見説明資料「災害廃棄物の処理イメージ」(令和6年2月6日)をもとにパスコにて作成
足立
廃棄物をいったん仮置き場まで移動できれば、ひとまず安心ですか?
清田
いいえ。仮置き場であっても、そこに長期間放置すると近隣の住民の方にとって同じ問題が起きますし、その地域の治安への影響も指摘されているんです。
足立
でも、それだけの量になると、被災地のゴミ処理施設だけでは処理しきれませんよね。
清田
そうなんです。能登半島地震のときも、各自治体や事業者と連携して県外のさまざまな処理施設へ運び、処理しています。遠く離れた東京でも処理をしているんですよ。
それでも、すべての廃棄物の処理が完了するまでに、2年はかかるといわれています。
足立
なぜそんなに時間がかかるのでしょうか?
清田
先ほどお話したように、廃棄物の量が多すぎるのです。
片づける前にまず「仮置き場をどこにするのか」という問題が発生します。能登半島地震のように240万トンもの廃棄物となると、東京ドームに相当するようなスペースでも足りません。
さらに廃棄物の撤去や運搬、処分にかかわる事業者をそれぞれ手配したり、ほかの自治体に処理の応援も依頼したりしなくてはいけないので、どうしても時間がかかってしまいます。
足立
そうなると、被災者はいつまでも元の生活に戻れませんね。
清田
その通りです。災害廃棄物の処理が遅れることで、復旧・復興もなかなか進みません。
仮置き場のごみ
仮置き場に集められた大量の災害廃棄物

災害廃棄物の「量を知る」ことがカギになる

足立
なんとかして、早く廃棄物を処理できないのでしょうか?
清田
そうですね。迅速な処理のためには、まず災害廃棄物の「量を知る」ことがとても重要なんです。量を正しく把握することで、必要な仮置き場の広さや数、場所を計画できますし、廃棄物を分別・処理する施設の選定や、そこまでの効率的な輸送方法やルートの設定も可能になります。さらに、処理量が明確になれば、周辺自治体への協力依頼もスムーズに進みます。こうした準備が整うことで、結果的に廃棄物の迅速な処理が実現できるのです。
足立
量を知ることって、とても重要なんですね。
でも、その量をどうやって調べるのですか? 実際に集める前に、物理的に量ることは難しいですよね。
清田
家が全壊すると、1棟につき100トン以上になるといわれています。全壊した建物が7,000棟あれば、少なくとも「7,000棟×100トン=70万トン」の廃棄物が出ると予測できます。
あくまで暫定的なものですが、それを目安にして動き始めなくてはいけません。できるだけ早く処理を進めるためには、この推計が必要不可欠なんです。
足立
全壊した家が何棟あるのか、どうやって調べているのでしょうか?
岡本
被災した人が申請する罹災証明書と、自治体などの担当者が行う現地調査によって最終的な数がわかります。しかし罹災証明申請のタイミングは被災者の方の事情によって違いますし、現地調査には数カ月かかってしまいます。
足立
それを待っていては、処理をはじめるのが何カ月も先になってしまいますね。
岡本
そこで、空から被害状況を把握する取り組みが進んでいるのです。飛行機やドローンなどを飛ばして空から被災地を撮影し、建物の被害状況を確認します。空から見ることで「全壊した建物が何棟あるか」「浸水した建物は何棟か」などの推計ができるのです。
空から見た被災状況
平成28年熊本地震 被害の様子が分かる航空写真。倒壊・損壊した建物にブルーシートがかけられている(2016年4月16日撮影)
足立
空の上から状況を把握することができるのですね!
岡本
ただ、飛行機は天気が悪いと撮影ができません。また、東日本大震災のように被災エリアが広範囲だと撮影しきれない可能性があります。そこで、天気の影響を受けずに空から撮影できる方法があるのですが、何だと思いますか?
足立
もしかして......人工衛星ですか?
岡本
その通りです。航空写真よりも高度が高いので、いっきに広い範囲を撮影できます。また、レーダー波を使って観測するSAR衛星は、モノクロ画像にはなりますが、雲が出ている場合や夜間でも状況把握が可能です。
飛行機から撮影した写真ほど細かく建物の状況はわかりませんが、広い範囲の被害の概要を把握することに適しています。

衛星画像を使って被害状況を把握

岡本
衛星画像には、過去のアーカイブがあります。発災前と発災後の画像を比較することで、「全壊は約〇棟」と推計できるのです。
足立
なるほど。災害前後の画像を見比べれば、どれだけの建物が被害を受けたかわかりやすいですね。
災害が起きたら、すぐに衛星による被災地の観測が始まるのでしょうか?
岡本
そうです。能登半島地震は2024年1月1日の夕方に発生しましたが、その日のうちに「人工衛星でいつ能登を撮影できるか」を調べて、翌2日には衛星画像を撮影しています。
衛星による被害状況確認
衛星画像:令和6年能登半島地震 輪島市 被害の様子
©CNES2024,Distribution Airbus DS
足立
衛星画像から被害状況を把握するというのは大変な作業のようですが、全壊した家の棟数などはどうやって割り出しているのでしょうか?
岡本
現段階では、熟練の技術者が画像を見ながら目視で判断しています。でも、災害はいつ起きるかわかりませんし、より判断の速度を上げていくためにも、AIの活用を進めています。
足立
AIが活かせれば、よりスピードアップが期待できそうですね。
岡本
はい。そして、まだ実証実験の段階ですが、海の被害状況を把握する取り組みも始まっています。
地震や豪雨のときには、土砂やがれきが海に大量に流れ込んでしまうケースがあります。そうなると船のスクリューにがれきが挟まってしまって、災害廃棄物を運搬する船が通行できなくなってしまいます。こういうところにも衛星画像が活用できないか、検討が進められています。

災害は必ず起こる。その前提で準備を!

足立
少しでも早く元の生活を取り戻すため、いろいろな工夫や技術革新が進んでいるんですね。南海トラフ地震などの巨大地震も予測されていますが、それに向けた対策もあるのでしょうか?
清田
これまでのさまざまな災害の経験から「事前に災害廃棄物の処理の準備を進めていこう」という自治体が増えているんです。環境省も、事前に「災害廃棄物処理計画」の作成を進めるよう各自治体に働きかけています。つまり、災害が起きる前に「仮置き場」や「事業者の手配」を見積もっておこうという動きです。
足立
災害が起きる前に、被害状況が予測できるんですか?
清田
技術の進歩により、たとえば「この地形の場所にマグニチュード〇の地震が起きたら、このくらい揺れるだろう。そうなると全壊の建物は〇棟、半壊は〇棟、災害廃棄物はこのくらい出る」という予測が可能になってきました。
その予測をもとに、「震度6の場合は、災害廃棄物の仮置き場はここ。もしも震度7なら、ここも候補地にしよう」と決めたり、応援してくれる事業者と事前に協定を結んだりする自治体もあります。
足立
災害が起きる前から綿密な準備が始まっているんですね。
清田
災害時には膨大な量の災害廃棄物が発生し、処理に時間がかかります。新しい技術を活用することで、より迅速に災害廃棄物の処理ができるよう、「災害廃棄物処理計画」の段階から自治体の担当者と検討を重ねているのです。
足立
今まで、いつ起こるかわからない災害に漠然とした不安を抱えていました。しかし、もし被害にあっても、このように1日も早く日常を取り戻すための工夫や取り組みが進んでいるということがよくわかりました。それだけでも安心できます。本日はありがとうございました。

お三方

ありがとうございました。

■関連リンク

○パスコの災害緊急撮影活動のご紹介(動画・約2分)

○「災害緊急撮影」ページ
○大自然の脅威「語りかける国土」Webブック

○衛星データの活用をもっと身近に

自分ごとを、ひとりごと。編集室ブログ

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