土地や建物の公平公正な固定資産評価の方法は?

土地や建物の公平公正な固定資産評価の方法は?

土地や建物の公平公正な固定資産評価の方法は?

土地や建物※を所有する人に、市町村から毎年届く「固定資産税」の納付通知書。それを見て「なぜ、この金額になったんだろう」と思ったことはありませんか? 
固定資産税の金額を決めるのに必要なのが、土地や建物の「評価」です。その評価は、誰がどのような形でしているのでしょう。
今回は固定資産の評価にかかわるお話を、資産情報部の峯野香織さんにうかがいます。

※ 固定資産税では「家屋」と言いますが、今回は「建物」と表記します。違いが気になる方は調べてみてください!

プロフィール

話し手 峯野 香織(みねの かおり)

株式会社パスコ 東日本事業部 第二技術センター 資産情報部 資産情報二課

名古屋工業大学大学院にて社会工学を専攻。パスコ入社後は一貫して固定資産業務(土地評価コンサル・地図データ整備・システム運用)に従事。

プロフィール

聞き手 樋口 颯大(ひぐち はやまさ)

地球の学校 編集室

固定資産税ってどんな税金? 決め手は「資産価値の評価」

樋口
母が地方にある祖父母の家を相続することになりました。「将来はあなたが受け継ぐのよ」と言われ、今まで他人事だった固定資産税が気になり始めました。
固定資産税って、そもそもどんな税金なのですか?
峯野
固定資産税をひとことでいえば「所有する土地や建物に対して課せられる市町村税」です。特徴のひとつに「1月1日の時点での所有者に税金がかかる」ことがあります。
たとえば今年の夏に土地を買って家を建てても、その年は固定資産税を支払う必要はありません。翌年1月1日に所有者のままであれば、その年には支払う義務があります。
樋口
1月1日の状態によって変わるのですね。
土地と建物の両方にかかるということですが、同じくらいの広さでも、立地や利用状況、建物の構造によって金額が違うと聞きました。どうやって決めているのですか?
峯野
固定資産税は、土地や建物の資産価値を評価することで決まります。
その土地や建物がある市町村が「この資産にはこのくらいの価値がある」と評価を行います。その金額を「評価額」と言い、その評価額に税率をかけて計算することで、固定資産税の金額が決まります。
どうやって評価額を決めるかというと、土地の場合、まず不動産鑑定士がその地域の基準になる土地の価格を鑑定します。同じ地域の土地でも、駅からの距離、広い道路に面しているか否か、などを比較して、道路の価格を1本ごとに決めます。たとえば駅や幹線道路が近いなど、利便性が高い道路は評価額が高くなります。
その金額は「1平方メートルいくら」で決められ、自治体が「全国地価マップ」にまとめています。これがいわゆる「路線価」です。
その道路の価格を基準に、土地の形や用途、道路への接し方などを評価して、個別の土地の評価額が決まっていきます。
固定資産の評価基準となる路線価を記載した路線価図の例。
東京都主税局HP内の「令和6基準年度路線価図」
https://www.tax1.metro.tokyo.lg.jp/map/R06/index.html より
(パスコにて一部拡大)
樋口
よく「東京都の銀座五丁目が一番高い」などと話題になりますよね。
では建物の評価額はどのように決められているのでしょうか?
峯野
建物は、まず現地調査して再建築費を算出します。再建築費とは「今、同じ建物を建てるといくらかかるか」を試算した金額です。そこから経年劣化を考慮して、評価額を決めます。そのため、新築の評価額が一番高く、年々金額が下がっていきます。
土地価格の上昇や建築費の高騰がニュースになるように、土地や建物の状況はその時々で変わります。そのため、評価額は法律で3年ごとの見直しが決められています。

固定資産評価の裏側にある、"一件ずつの確認作業"

樋口
日本中の土地や建物を3年ごとに評価しているということですね。
一件一件確認しているのですか?
峯野
そうなんです。全国の市町村には固定資産評価を担当する職員がいて、原則として一件一件確認しています。
たとえば新しい家が建つと、担当職員が家の外側や部屋の中、建築設備などもすべて確認し、その家の評価額が決まります。
土地の場合も同じで、担当職員が現地を訪れてチェックしています。全国の土地は、土地の境界や用途を明記した地図として管理されていて、今までと同じ使われ方かどうか、評価を見直す必要があるか、などを確認しています。たとえば、「畑だった場所に家が建っている」「家が一軒建っていた場所に、二軒の家が建っている」「家の前の道路の広さや舗装状況が変わった」などの変化があれば、資産価値が変わったと言えます。つまり、評価額の変更が必要となり、固定資産税の金額も変わります。
だから調査はとても重要なのです。
樋口
全国の土地の状況を目視で確認するなんて、膨大な時間と人手がかかりそうです。負担も大きいのではないですか?
峯野
その通りです。でも少しずつ効率化が進んでいます。
その代表は航空写真の利用です。航空写真とは、飛行機などにカメラを設置し、地上を撮影した写真です。上から土地を見ることができるので「ここは農地か?住宅か?」などが現地に行かなくてもわかります。現在ではほとんどの自治体が固定資産の調査に航空写真を使っています。
航空写真を利用することで効率的な調査が可能に

デジタル技術やAIが変える固定資産評価の仕組み

峯野
最近ではデジタル化が急速に進んでいます。
航空写真や土地の境界や用途などの情報をデジタル化してGIS(地理情報システム)に取り入れることで、土地の形状や面積、利用状況が高い精度で把握することができるようになりました。
さらに、都市計画のデータを重ねることで「数年後にはここに新しい道路ができる」といったこともわかります。路線価の情報と組み合わせれば、評価額の算定もより効率的になります。
また、今後注目したいのはAIの活用です。これまで航空写真は人間の目でチェックしていましたが、AIを使えば過去の写真と比較して「家が新しく建っている」「ここに道路が作られた」と瞬時に判断してくれるのです。
撮影時期の異なる2枚の航空写真から、AIが建物の変化を検出・分類
樋口
目覚ましい進歩ですね。でも、航空写真だけでは「坂の途中にある」とか「敷地内に高低差がある」などがわかりにくいのでは?
峯野
最近は3Dの撮影技術が進歩し、地上の様子を立体的に再現できるようになりました。そのため、航空写真だけではわかりにくかった、高低差や建物の外壁の有無なども、より正確に把握できるようになってきています。
ほかにも、現地に足を運ばなくてもわかることが、かなり多くなってきました。
土地の登記情報のデジタル化もその一つです。これまで自治体は、必要な登記情報を、定期的に法務局に出向いて紙でもらっていました。登記情報がデジタル化されたことで、法務局へ行くことなく、システムで検索するだけで、簡単に情報を得られるようになったんです。

公平公正な資産評価が支える、私たちの豊かな暮らし

樋口
さまざまな形で効率化が進んでいるのですね。固定資産税を納める私たちにもメリットはあるのでしょうか。
峯野
固定資産税は「賦課税」といって、行政側が税額を計算して納税者に請求する税金です。だからこそ、絶対に間違いがあってはいけません。
人間の目による判断では、見落としや思いこみがあるかもしれません。航空写真やデジタル技術を併用することで、より正確に土地や建物の資産価値を評価することができます。「正確で公正」であることは、当たり前のことかもしれませんが、信頼感や公平感に繋がりますので、大きなメリットだと思います。
また、納税者が「去年よりも税金が上がったのはどうして? 」と疑問を感じたときに、インターネットで路線価の確認ができる自治体がほとんどです。デジタル化が進むことで、十分納得したうえで納税する手助けになっているのです。
樋口
公平公正に評価してもらえているのですね。納める私たちも安心です。
納税した固定資産税は、どのように活用されているのでしょうか?
峯野
固定資産税は市町村税のうちの約4割を占めている大きな財源です。
納税者の多くはその地域に暮らしている人ですから、住んでいる人の利益に還元されるような使い道になっています。たとえば道路、学校、公園などの地域のインフラに使われることが多いですね。地域社会の維持に必要な費用を、その地域に住む人が負担しているのです。
樋口
固定資産税が公平公正な評価にもとづいて課税されていることがわかって安心しました。また、その税金で私たちの日々の暮らしが安心で快適なものになっているのですね。将来、祖父母の家を自分が相続するときにも役立つと思います。
峯野
豆知識ですが、固定資産税評価の基準になるのは1月1日時点の土地や建物の情報のため、年末から年明けの期間に航空写真を撮影している自治体が多いんですよ。とくに元旦の撮影が多いので、初詣などで外出された際に、空を見上げてみてください。地上を撮影する飛行機が飛んでいるかもしれません。
樋口
そうなんですね! ぜひ来年のお正月には空を見上げて飛行機を探したいです。本日はありがとうございました。
峯野
こちらこそ、どうもありがとうございました。

本記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
この記事が、皆さんとともに学び、考えるきっかけとなれば幸いです。
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