大切な文化財を 災害から守るには?
相次ぐ災害から文化財を守り、未来へと受け継ぐには
地震や台風などの災害は、私たちの暮らしや社会だけでなく、文化財にも大きな被害をもたらします。2016年の熊本地震は、街のシンボルであり、人々の心のよりどころでもあるお城に大きな傷あとを残しました。そうした災害を教訓に、私たちは文化財をどのように守り、次の世代へ残していけるのでしょうか。環境文化コンサルタント事業部 文化財技術部の宮澤貴大さんにお話をうかがいました。
プロフィール

話し手 宮澤 貴大
株式会社パスコ 環境文化コンサルタント事業部 文化財技術部 史跡整備二課
2021年パスコ入社。主に文化財の保存・活用・整備に係る行政計画の策定支援業務に従事。現在は計画に基づく文化財調査業務も担当。
プロフィール

聞き手 足立 那奈
地球の学校 編集室
積み重ねられた歴史を、一瞬で崩した地震
熊本地震で倒壊した熊本城の様子を見て、とてもショックを受けました。実際、どのような被害があったのでしょうか。
国の重要文化財に指定されている13棟の建物は、すべて被害を受けました。そのうち2棟は全壊、3棟は一部倒壊、8棟は破損です。さらに、天守などの再建・復元された建物20棟も、倒壊した5棟を含め、すべてが被災しました。
石垣の被害も深刻でした。全体の1割の229箇所が石の崩落を伴う被害を受け、膨らみや緩みによる積み直しが必要な箇所を含めると全体の3割に及びます。
石垣の被害も深刻でした。全体の1割の229箇所が石の崩落を伴う被害を受け、膨らみや緩みによる積み直しが必要な箇所を含めると全体の3割に及びます。


そんなに被害があったんですね......。
熊本地震では、2016年4月14日と16日の2回にわたって震度7が観測されました。最初の揺れでは持ちこたえていた建造物や石垣も、2回目の揺れの際に倒壊・崩落してしまったんです。また、地盤沈下や地割れも生じました。
復旧状況はどうなっているんでしょうか?
2020年に天守の復旧が完了し、翌年には一般公開がはじまりました。直線で242mの長さをもつ長塀(ながべい)や、熊本城の北の守りを固めていた監物櫓(けんもつやぐら)といった国の重要文化財の復旧も次々と完了しています。
ですが、それらはごく一部。数多くの建造物や石垣は、今もまだ修復が進められている最中です。
ですが、それらはごく一部。数多くの建造物や石垣は、今もまだ修復が進められている最中です。
文化財だからこその、修復の困難さ
天守は復旧しているのに、石垣がまだなのはなぜですか?
天守と石垣の大きな違いは、その歴史的価値です。石垣は修復の過程は経ているものの、1600年代初頭の加藤清正による築城当時の石がおおむね残っており、「当時の様相を現代に伝えるもの」として文化財に指定されています。
それに対し天守は、1960年に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建されており、文化財の指定からは外れています。
それに対し天守は、1960年に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建されており、文化財の指定からは外れています。
文化財ではないから、天守は早く再建できたということですか?
それも理由のひとつです。現代の工法で再建された建物だったため、修復もスムーズでした。しかし、何より大きかったのは、街のシンボルとして復興を後押しする存在にしたいという強い思いがあったことです。地域住民から「早く修復してほしい」という声もあり、天守の復旧は最優先で進められました。
天守が地域の方の心のよりどころになっているんですね。石垣は、歴史的価値が高いために修復に時間がかかっているんですか?
はい。災害などで被害を受けた文化財は、その被害を受ける前の状態に戻すことが原則となっています。歴史のなかで受け継がれてきた価値を損なわないよう、できる限り当時の材を用い、当時の工法によって修復を進める必要があります。
それに加えて、安全性の確保や文化財としての調査も行いながら、丁寧かつ慎重に修復作業をする必要があるため、石垣の修復には時間がかかっています。
それに加えて、安全性の確保や文化財としての調査も行いながら、丁寧かつ慎重に修復作業をする必要があるため、石垣の修復には時間がかかっています。
文化財の歴史的価値を守りながらの修復とは
崩れた石をただ積み上げればいい、というわけではないんですね。具体的にどのように修復しているんですか?
災害で被害を受けたものを修復するには、まず現況を記録し、解体・修理の設計を行います。解体時はこまめに調査・記録を行いながら一石一石取り外していきます。
石垣の解体と並行して石材調査や遺構調査を行います。こうして得られた情報に応じて設計を変更しながら、石材をもとの位置に積み直していく工程に入ります。
石垣の解体と並行して石材調査や遺構調査を行います。こうして得られた情報に応じて設計を変更しながら、石材をもとの位置に積み直していく工程に入ります。


かなりの時間がかかりそうですね。
そうですね、建造物によって違いはありますが、基本的には石材を1段外すごとに一石一石の破損状況や寸法、形状を記録していくため、修復には長い時間を要します。石が積みあがった後も、すぐに復元に取り掛かるわけではなく、耐震調査や補強工事を行う必要があります。
文化財としての歴史的価値を損なわず、安全性に配慮しながら一つひとつ検討を進めていくため、熊本城全体の復旧完了は2053年になる見込みです。
文化財としての歴史的価値を損なわず、安全性に配慮しながら一つひとつ検討を進めていくため、熊本城全体の復旧完了は2053年になる見込みです。
伝統技術と最新技術を組み合わせた石垣の修復作業
あと30年近くかかるんですね! 修復を計画的に進めるため、最新技術なども使われているのでしょうか?
はい、代表的なのは、レーザー計測です。地上での計測に加え、ドローンによる上空からの計測などで取得した高精度な3次元データが、的確な修復に役立っています。航空写真をもとに3次元モデルを生成し、復元作業に活用するケースもあります。
こうした技術が活かされるようになったきっかけは東日本大震災です。たくさんの文化財が被災したなか、とりわけ被害が大きかったのが、福島県白河市の国指定史跡、小峰城跡の石垣です。復旧には多くの時間を要しましたが、その要因として震災以前の記録が十分ではなかったことが挙げられます。これを機にレーザー計測をはじめとする技術の開発と活用が大きく進みました。
また、定期的な調査では、レーダー探査も普及してきています。電磁波を利用して石垣の内部構造や組成、密度、空洞の有無などを調べることで、石垣の健全度を診断することができます。
こうした技術が活かされるようになったきっかけは東日本大震災です。たくさんの文化財が被災したなか、とりわけ被害が大きかったのが、福島県白河市の国指定史跡、小峰城跡の石垣です。復旧には多くの時間を要しましたが、その要因として震災以前の記録が十分ではなかったことが挙げられます。これを機にレーザー計測をはじめとする技術の開発と活用が大きく進みました。
また、定期的な調査では、レーダー探査も普及してきています。電磁波を利用して石垣の内部構造や組成、密度、空洞の有無などを調べることで、石垣の健全度を診断することができます。


AI技術なども使われているのでしょうか?
はい、AI技術も普及してきています。たとえば石垣で使用されている石は、文化財としての価値を損なわないよう、もとの位置に正しい角度で戻す必要があります。3次元データが残っていない場合は、写真をAIで解析して位置を推定。作業を大幅に効率化することができます。
ただ、AIを使っても、すべての石の位置を完全に割り出せるわけではありません。そんなときに必要となるのが石工さんの技術です。
石材一つひとつの特徴を正確に捉え、うまくかみ合わない場合には微調整。石工としての長年の経験に裏付けられた、確かな技術と研ぎ澄まされた感覚がなせる技の数々が、石垣復旧の要となっています。
このように最新技術と伝統技術の両方を組み合わせた修復が、今の復元の形です。
ただ、AIを使っても、すべての石の位置を完全に割り出せるわけではありません。そんなときに必要となるのが石工さんの技術です。
石材一つひとつの特徴を正確に捉え、うまくかみ合わない場合には微調整。石工としての長年の経験に裏付けられた、確かな技術と研ぎ澄まされた感覚がなせる技の数々が、石垣復旧の要となっています。
このように最新技術と伝統技術の両方を組み合わせた修復が、今の復元の形です。

「石垣カルテ」で変化をキャッチ⁉被害を最小限にするための対策
また大きな地震が起きた際に、被害を最小限にするための対策はあるのでしょうか?
石垣の価値を適切に保存し、有事の際は人的被害を最小限に抑えられるよう、平時から目視や実測による観測が行われています。石垣の膨らみ具合や石の破損状況などを記載した「石垣カルテ」と呼ばれる記録をもとに、差異を確認する方法もあります。そのほか、石垣のひび割れの変動を自動計測し、異常値を示した際には警報を発するシステムも用いられています。
また、文化財でも安全は最優先です。安全性に懸念のある場合には、当時の工法を守りつつ現在の技術で補うこともあります。たとえば、石垣を積み直す際にステンレスと合成樹脂を素材とするシートを裏側に敷き込む、石垣のすき間から長い鉄筋を打ち込むなど、現代の土木技術を応用。構造強度と耐震性を高め、安全性を追求しています。
また、文化財でも安全は最優先です。安全性に懸念のある場合には、当時の工法を守りつつ現在の技術で補うこともあります。たとえば、石垣を積み直す際にステンレスと合成樹脂を素材とするシートを裏側に敷き込む、石垣のすき間から長い鉄筋を打ち込むなど、現代の土木技術を応用。構造強度と耐震性を高め、安全性を追求しています。
文化財は、歴史を未来へ語り継ぐためのもの
文化財を未来に残していく意義とは何でしょうか?
文化財は、当時の人々の生活様式や技術、考え方を、そのまま現代に伝える生きた資料です。そこから学び、感じることは、私たちの心を深く豊かにしてくれるもの。そうした価値を未来の世代へと絶やすことなく伝えるのは、いまを生きる私たちの責務にほかならないと思います。
また、文化財はその土地の象徴的存在であり、地域のアイデンティティを形づくる役割も担います。修復が進む熊本城の姿は、一歩一歩復興をめざす力強い歩みのシンボルとして被災した人々を大いに勇気づけ、強い絆を育みました。文化財を守ることは地域の一体感を守り育てることにも役立ちます。
同時に、文化財を未来へと伝える営み自体が、伝統技術や文化を継承することにつながっています。熊本城の石垣修復の現場では、石工さんを講師に技術講座を開き、地元の若手を積極的に採用することで技術者の育成に努めています。
文化財に関わる一人ひとりが、技術や知識を学び、活かし、そして伝えていく。文化財とはまさしく、過去と未来をつなぐ架け橋ではないでしょうか。
また、文化財はその土地の象徴的存在であり、地域のアイデンティティを形づくる役割も担います。修復が進む熊本城の姿は、一歩一歩復興をめざす力強い歩みのシンボルとして被災した人々を大いに勇気づけ、強い絆を育みました。文化財を守ることは地域の一体感を守り育てることにも役立ちます。
同時に、文化財を未来へと伝える営み自体が、伝統技術や文化を継承することにつながっています。熊本城の石垣修復の現場では、石工さんを講師に技術講座を開き、地元の若手を積極的に採用することで技術者の育成に努めています。
文化財に関わる一人ひとりが、技術や知識を学び、活かし、そして伝えていく。文化財とはまさしく、過去と未来をつなぐ架け橋ではないでしょうか。
お城や石垣は単なる「過去の遺産」ではないんですね。「未来に語り継ぐ物語」であり、後世に伝えていくことが大事なんだと感じました。本日はありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。

本記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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