自動運転の実用化で社会はどう変わる?

自動運転の実用化で社会はどう変わる?

ドライバー不足によるさまざまな社会問題。自動運転で解決できる?

全国的に問題になっているドライバー不足。「地方の路線バスの本数が減っている」「運転手の過重労働による交通事故」などというニュースも目にしますが、その解決策として期待が高まるのが自動運転技術の開発です。
ドライバーの操作を必要とせず、自動車やバス、トラックなどを走行させる自動運転。その技術の現在地と、社会に及ぼす効果を新空間情報事業部の広瀬有里さんにうかがいました。

プロフィール

話し手 広瀬 有里

株式会社パスコ 新空間情報事業部 ITS技術部 ITS技術課

2013年にパスコ入社。カーナビ関連業務、高精度地図を含めた地図生成、地図データ評価業務に従事。
※所属は2025年3月時点のもの

プロフィール

聞き手 足立 那奈

地球の学校 編集室

自動運転車が深刻なドライバー不足を解決

足立
最近、全国各地でバスの運行本数や路線が減っていると聞きました。とくに地方は生活に車が欠かせないため、運転免許をもっていない方は不便を感じているのではないでしょうか。また、本来は免許を返納したい高齢者の方も、移動手段が他にないため返納できないという意見もあると思います。
こうした背景には、どんな課題があるのでしょうか?
広瀬
バスなどの公共交通機関が減ると、自家用車を運転しない人の移動手段が限られてしまいますよね。この問題の背景にあるのが、慢性的なドライバー不足です。
実は公共交通機関だけでなく、トラックによる物流の現場でも人手不足が同時に進行しており、社会全体の「移動」と「運ぶ」を支える仕組みが揺らぎつつあります。
その対策として国や自治体が推進しているのが、ドライバーを必要としない「自動運転」の実用化です。
足立
自動運転って最近よく耳にしますが、まだ実用化されてないですよね?
広瀬
実証実験の段階ですが、国内ではさまざまな地域で自動運転バスが運行しています。限定された時間帯や区間ではあるものの、運転手のいない無人のバスが走行しているケースもいくつかあります。
アメリカや中国では無人タクシーが実用化され始めていますから、遠くない将来に日本でもそうした風景が広がると思います。

安全な自動運転に必要な3つの技術

足立
それは楽しみですね。でも、どうやって車が無人で走れるのでしょうか。
広瀬
世界的に自動運転技術の研究が進む中、アプローチは多岐にわたります。ここではそのひとつである「高精度三次元マップを活用した方式」に焦点を当て、3つのポイントを解説します。
最初のポイントは「自己位置の特定」です。自分が今どこにいて周辺に何があるか正確にわからなければ、自動で走行することはできません。
そのために必要なのが、高精度三次元マップという地図です。平面の地図情報に加え、車線やガードレール、道路標識、横断歩道などの情報を正確にとらえた三次元の地図が必要なのです。
さらにその地図のどこを走っているのかを正確に把握することも重要です。そのためにはGNSS(全球測位衛星システム)を使います。これは人工衛星を使って正確に位置を特定するもので、カーナビや携帯電話などに使われるGPSもそのひとつです。
自動運転に必要な道路情報を重ね合わせ、三次元マップを生成
足立
地図や衛星による現在地の把握が大事なんですね。では、2つめは何ですか?
広瀬
センサーを使った認識技術による「周囲の状況の把握」です。
正確な地図があって、自分がどこにいるかがわかっても、今のところそれだけで安全な走行はできません。ほかの車や歩行者との距離を正しくとっているか、障害物がないかなどを車自身が判断する必要があるのです。そのためには「認識技術」と呼ばれる技術がとても重要です。
自動運転車にはカメラやレーザー、レーダーなどのセンサー類が搭載されていて、それが人間の「目」のような役割を果たすのです。いわば、お掃除ロボットのさらに高性能なものですね。それが歩行者や車両の存在などを認識し、アクセルやブレーキ、ハンドルなどと連動することで、速度を調整したり、人や車両をよけて走行したりできるのです。
足立
車両自体も賢くなければいけないのですね。3つめのポイントは何ですか?
広瀬
3つめは「交通インフラとの連携」です。
車に搭載したセンサーだけでは、どうしてもとらえきれない死角があります。たとえば交差点の曲がり角の先や、大型車の陰になった範囲などです。そうした情報を信号機や道路脇に設置されたセンサーで検知し、自動運転車にリアルタイムで伝達することで、事故を未然に防ぐことができます。
さらに、渋滞や事故、道路工事など周囲の交通情報を取得することで効率的なルートや最適な速度を割り出し、安全でスムーズな走行を支援するとともに、渋滞の緩和にも役立ちます。

自動運転の普及で期待される交通事故の削減効果

広瀬
そのほか、AIを駆使した自動運転車の開発も進んでいます。高精度三次元マップの整備にはコストがかかりますから、高度な地図に頼らなくても人間と同じようにAIが道路状況を見て学習し、予測し、判断すればいいわけです。
現段階ではAI単独で判断するのではなく、さきほどお話した3つの要素とAIを併用したハイブリッド車が増えているようです。
足立
安全な自動運転を目指して、さまざまな技術開発が進んでいるのですね。
これまで「機械に運転を任せるのは少し怖い」と思っていたのですが、お話を聞いて安心できました。
広瀬
交通事故の約8割は、運転者のヒューマンエラーが原因といわれています。飲酒運転や速度超過などの交通違反は論外ですが、誰でも疲れていると不注意になったり、とっさの判断を誤ったりする可能性はありますよね。
それを補うのが自動運転。つまり交通の安全性を高めるために開発されてきた技術だということです。
足立
何か課題などはないのでしょうか。
広瀬
天候不良などの環境要因でセンサーの精度が低くなる場合があります。
また、ソフトウェアの不具合が起きたり、サイバー攻撃にあう可能性もありますから、二重三重に対策を積み重ねる必要はあると思います。

国内の自動運転はレベル4の実用化を目指す

足立
実用化はどこまで進んでいるのですか。
広瀬
自動運転には5段階のレベルが設定されています。
国土交通省資料「自動運転車の定義及び政府目標」(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001371533.pdf)をもとにパスコにて作成。
広瀬
レベル1と2は運転の支援にとどまるので、運転はあくまでもドライバーが主体。安全運転における責任もドライバーにあります。
レベル3以降になると責任は自動運転システムが担うことになりますが、レベル3では「システムが困ったときには人間が対応する」ことが義務付けられているため、ドライバーの乗車が必須です。
さらに進んだレベル4では特定条件下で、レベル5になるとあらゆる条件のもと、ドライバーのいない無人運転が可能となります。
足立
日本はいま、どのレベルにあるのですか?
広瀬
2021年以降発売の新型国産車にはすべて、自動ブレーキの装備が義務付けられています。これはレベル1ですね。
レベル2の車も各メーカーから相次いで販売され、ドライバーが周囲の状況を監視したうえでのハンズオフ(手放し)運転が可能な車種も増えてきました。
レベル3の市販車はまだ世界的に見ても少ないですが、世界初のレベル3搭載の市販車は日本製だったんですよ。いまではレベル4の自動運転を実用化すべく、バスやトラックで実証実験が進んでいる段階です。

日本各地で無人のバスが地域の交通を支える

足立
レベル4の車が、実際に走っている地域があるのですか?
広瀬
はい。過疎化で公共交通の維持が課題となっている地方から交通量の多い都市部まで、自動運転バスの導入をめざす各地で、レベル3~4の実験運行が行われています。
まだ乗務員が運転席に着いた状態ですが、レベル4での営業運行がはじまった地域もあり、今後ますます実用化に向けた動きが加速するものと思われます。
たとえば、2025年に開催された大阪・関西万博では、特定の条件下でレベル4の自動運転が認可され、来場者の移動を支える手段のひとつとして運行しました。 私たちの身近な場所で、すでに現実のものになりつつあると言えそうですね。
足立
すごいですね。物流分野での自動運転も進んでいるのですか?
広瀬
新東名高速道路では、レベル4の自動運転を想定した実証実験が行われています。本線上の走行試験に加えサービスエリア内では、高精度三次元マップをもとに定められた駐車位置に停車できるかといった実験なども行われました。
トラックでのレベル4の自動運転が可能になれば、ドライバー不足や長時間労働の問題も解消できますよね。
足立
となると、レベル5の「完全自動運転」の実現がますます楽しみですね!
広瀬
そうですね。でもそのためには、クリアしなければいけない課題があります。
レベル5の自動運転を安全に実現するためには、全国レベルで整備された高精度三次元マップが不可欠だと考えられます。しかし現段階では、全国くまなく高精度三次元マップを整備し、それを常に最新の状態へ更新し続けることには大きな課題があります。また、天候の急変や災害などに対応できるセンサーの開発も求められています。
法律の整備も急務です。自動運転車で交通事故が起きたときに、その責任は運転者が負うのか、自動車メーカーやシステムを開発した企業にあるのかなど、法的要件を明確にしていく必要があると言われています。
足立
さまざまな課題がクリアになれば、自動運転が全国に広がっていきますね。10年後、20年後の未来に、私たちの移動や物流がもっと便利で安全なものになることを期待しています。本日はありがとうございました。
広瀬
ありがとうございました。

今回は、地球の学校はじめてのオンライン取材。東京~大阪の距離を超え、ごく自然に会話できるなんて、実はとってもすごいことですよね。広瀬さん、ありがとうございました!

   

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