おなじみの魚が食卓から消えてしまう? 食生活の裏側にある、海の変化
日本の食卓を揺るがす海洋環境の大きな変化
スーパーの鮮魚売り場で、サンマやサケなど、身近な魚の値段が高くなったと感じている人も多いのではないでしょうか。実は今、日本近海では、獲れる魚の種類や量に大きな変化が起きています。その原因と対策について、環境文化コンサルタント事業部の濱本大地さんと徳弘ほのかさんにお話をうかがいました。
プロフィール

話し手 濱本 大地(はまもと だいち)
株式会社パスコ 環境文化コンサルタント事業部 環境技術部 技術一課
水産関連の大学を卒業後、2021年にパスコへ入社し、現在は海洋調査の業務に従事。水産部門(水産資源および水域環境)の技術士資格を有する。
※プロフィールは取材当時のものです

話し手 徳弘 ほのか(とくひろ ほのか)
株式会社パスコ 環境文化コンサルタント事業部 環境技術部 技術二課
水産関連の大学を卒業後、2022年にパスコ入社。現在は海洋に関する業務のほか、養殖関連業務にも携わる。
※プロフィールは取材当時のものです

聞き手 川村 沙紀
地球の学校 編集室
"魚が減った"って本当?食卓の変化の理由を探る
スーパーに行くと、以前と比べて魚の値段がずいぶん高くなったと感じています。日本の海の魚が減っているからでしょうか?
魚の値段は、燃料費・人件費の高騰、市場の需要と供給の関係により高くなっていますが、日本近海で獲れる魚の漁獲量が以前より減っているのは事実です。農林水産省の『水産白書』によると、日本の食卓でおなじみのサンマ・サケ・スルメイカなどの漁獲量は、2014年~2023年の間で約5分の1にまで減少しています。
ただ注意が必要なのは、これは「日本近海で獲れた魚の量が減っている」ということであって、世界の海全体の魚の資源量が本当に減っているかは、実はよくわかっていないという点です。
ただ注意が必要なのは、これは「日本近海で獲れた魚の量が減っている」ということであって、世界の海全体の魚の資源量が本当に減っているかは、実はよくわかっていないという点です。
世界全体では魚の総数が減っているとは限らない、というのは意外ですね。
魚は広い海を移動(回遊)しますから、日本の近くにいた魚が他の海域に移動している可能性もあります。魚種によっては、日本での漁獲量が減り別の海域で増えているものもありますし、地域単位では、これまで見られなかった魚種が獲れる量が増えた事例もあります。単純に「魚が減った」と言い切るのも難しいんです。
漁師さんが高齢化で減っていることも漁獲量の減少に関係していると思います。漁の回数が減れば、統計上の漁獲量も減ります。魚自体が減っているのか、漁に出る人が減っているのか、複数の要因が絡んでいて、一概には言えないんです。

農林水産省「令和6年度水産白書」より(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r06_h/trend/1/t1_f_2_1.html)
温暖化が引き起こす、海洋環境の変化
そう単純な話ではないんですね。では、日本の海では実際どのような変化が起きているのでしょうか?
大きなものとしては、地球温暖化による海洋環境の変化があります。海水温が上昇することで、もともと暖かい海域を好む魚がより北の海域まで分布を広げています。わかりやすい例がブリです。以前は日本海の西側や南側が主な漁場でしたが、近年は北海道など北の海域でも漁獲量が増えています。実際に、スーパーでも北海道産のブリをよく見かけます。

農林水産省「令和6年度水産白書」より(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r06_h/trend/1/t1_f_2_1.html)
私たちは実際に海に出て、魚や海藻などの調査を行っていますが、そのなかで近年、大きな変化を感じる点が2つあります。
一つは「磯焼け(いそやけ)」という海藻がなくなってしまう現象です。同じ海域を何年も調査していると、以前は海藻が豊富だった場所でも、わずか数年でほとんどみられなくなるといった変化が実際に起きています。海藻は魚の産卵場所や稚魚の隠れ場所として重要な役割を果たしていますから、海藻がなくなることは漁業資源にとって死活問題です。
一つは「磯焼け(いそやけ)」という海藻がなくなってしまう現象です。同じ海域を何年も調査していると、以前は海藻が豊富だった場所でも、わずか数年でほとんどみられなくなるといった変化が実際に起きています。海藻は魚の産卵場所や稚魚の隠れ場所として重要な役割を果たしていますから、海藻がなくなることは漁業資源にとって死活問題です。
磯焼けの原因としては、海水温の上昇やインフラ整備などの沿岸環境の変化などが挙げられます。一度こうした状態になると、海藻を食べる生物の駆除や新たな種苗の投入など継続的な管理が必要となり、元の状態に戻るまで数年~数十年単位の時間がかかってしまう場合もあります。
また、元に戻りにくい要因の一つとして魚やウニによる食害があります。海水温が上がるとウニなどの活動が活発になり、生えた海藻を食べてしまうんです。結果、磯焼けした海底はウニだらけで、砂漠のような状態になっています。
また、元に戻りにくい要因の一つとして魚やウニによる食害があります。海水温が上がるとウニなどの活動が活発になり、生えた海藻を食べてしまうんです。結果、磯焼けした海底はウニだらけで、砂漠のような状態になっています。
海藻が減ると、ウニも十分な餌を確保できず、商品にならないほど痩せてしまいます。海女さんからも、海藻を食べるアワビやサザエが獲れなくなっている、という声をよく聞きます。
もう一つの変化は、サンゴの北上です。もともと南の暖かい海に生息していたサンゴが、海水温の上昇によって分布域を北へと広げ、以前は海藻が茂っていた場所にも現れるようになっています。その一方で、沖縄など従来からサンゴが生息していた南の海域では、水温の上昇による白化現象※ が深刻化しています。
このように、温暖化による海水温の上昇は、水中に棲む生物にとって非常に大きな環境変化だと実感しています。
このように、温暖化による海水温の上昇は、水中に棲む生物にとって非常に大きな環境変化だと実感しています。
※白化現象・・・サンゴに共生している褐虫藻が失われることで、サンゴの白い骨格が透けて見える現象のこと。褐虫藻はサンゴに栄養を供給しているため、褐虫藻が失われることでサンゴは死滅してしまう。

温暖化以外の海の変化と、それを捉えるための"調査"
温暖化以外にも、魚に関する変化はあるのでしょうか?
海洋環境では数10年単位で環境が大きく変化する「レジームシフト」という現象があります。その結果、変化した環境に適した魚種が増え、適応しない魚種は減少する「魚種交代」が生じます。日本近海ではアジ・サバ・サンマや、マイワシ・カタクチイワシ・スルメイカといった魚種でこのような交代が起こります。
温暖化は海の環境変化を引き起こす大きな要因の一つですが、その背景には様々な要素が重なっています。大切なのは、今、海で何が起きているかをしっかり観察し、把握することです。その積み重ねが、漁業の対策や養殖の発展につながる基礎データになっていくのだと思います。
温暖化は海の環境変化を引き起こす大きな要因の一つですが、その背景には様々な要素が重なっています。大切なのは、今、海で何が起きているかをしっかり観察し、把握することです。その積み重ねが、漁業の対策や養殖の発展につながる基礎データになっていくのだと思います。

農林水産省「令和元年度水産白書」より(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_f1_1.html)
海の状況を把握するために、具体的にどんな取り組みがあるのでしょうか?
「漁業実態調査」という取り組みがあります。漁師さんたちにヒアリングを行い、現在の漁場や漁獲物の情報を集めるものです。
どこで何がどれだけ獲れているかという詳細な情報は、これまで十分に「見える化」されていないのが実情です。ですから、まずは現状の把握が重要なんです。
そのため、漁師さんと一緒に船に乗り、現場で話を聞くこともあります。漁師さんの知識は長年の経験や感覚に基づくものが多く、現場でこそわかることがあります。経験や知識をデータとして記録し、水温データや海底の状態などと重ねることで、「なぜここで獲れるのか」という傾向が見えてきます。
こうした調査の積み重ねが、資源管理の基礎データになると期待されています。
どこで何がどれだけ獲れているかという詳細な情報は、これまで十分に「見える化」されていないのが実情です。ですから、まずは現状の把握が重要なんです。
そのため、漁師さんと一緒に船に乗り、現場で話を聞くこともあります。漁師さんの知識は長年の経験や感覚に基づくものが多く、現場でこそわかることがあります。経験や知識をデータとして記録し、水温データや海底の状態などと重ねることで、「なぜここで獲れるのか」という傾向が見えてきます。
こうした調査の積み重ねが、資源管理の基礎データになると期待されています。

養殖の可能性を地図で探る最新の取り組み
こうした変化の中で、私たちの食卓に並ぶ魚はこれからどうなるのでしょうか?
魚を安定的に供給する方法として、養殖に注目が集まっています。ブリやマダイなどの人気の魚種は、養殖の割合が天然を上回るほどです。
近年は、陸で魚を育てる取り組みが注目されていますが、設備投資や維持管理のコストの高さが課題です。一方で、海での養殖は技術の進歩により大型の生け簀(いけす)の設置や回遊魚の養殖が可能になり、期待が高まっています。
ただし、海ならどこでも養殖ができるわけではないんです。水温や波当たり、潮流などの自然条件に加え、船の航路と重ならないか、出荷する際の荷揚げや流通のルートが確保できるなど、社会的な条件も満たす必要があります。様々な条件を踏まえ、海域を評価する必要があります。
近年は、陸で魚を育てる取り組みが注目されていますが、設備投資や維持管理のコストの高さが課題です。一方で、海での養殖は技術の進歩により大型の生け簀(いけす)の設置や回遊魚の養殖が可能になり、期待が高まっています。
ただし、海ならどこでも養殖ができるわけではないんです。水温や波当たり、潮流などの自然条件に加え、船の航路と重ならないか、出荷する際の荷揚げや流通のルートが確保できるなど、社会的な条件も満たす必要があります。様々な条件を踏まえ、海域を評価する必要があります。
そうした条件の場所を見つけるには、どんな方法があるのでしょうか?
水温や海流、海底の状態、航路など、複数の条件を地図上に重ねて分析できるGIS(地理情報システム)を使って、候補地を抽出します。
現在の養殖場は、長年利用されてきた漁業権の範囲内に設置されることが多く、どのような条件の場所が適しているのか整理されていませんでした。そこで、養殖場の選定に関わる様々な条件を地図上で整理し、海域の状況を可視化することで新たな適地の発見につながります。さらに、漁業実態調査で集めた漁場の情報も地図上に重ねることで、より精度の高い分析ができます。
養殖に適した場所を地図上でわかりやすく示すことで、新たな海域の利活用を後押ししたり、自治体による養殖業振興の計画策定にも活用できます。こうした取り組みが今後全国に広がることで、日本の水産業の持続的な発展につながり、より安定して魚を食卓へ届けられるようになると考えています。
現在の養殖場は、長年利用されてきた漁業権の範囲内に設置されることが多く、どのような条件の場所が適しているのか整理されていませんでした。そこで、養殖場の選定に関わる様々な条件を地図上で整理し、海域の状況を可視化することで新たな適地の発見につながります。さらに、漁業実態調査で集めた漁場の情報も地図上に重ねることで、より精度の高い分析ができます。
養殖に適した場所を地図上でわかりやすく示すことで、新たな海域の利活用を後押ししたり、自治体による養殖業振興の計画策定にも活用できます。こうした取り組みが今後全国に広がることで、日本の水産業の持続的な発展につながり、より安定して魚を食卓へ届けられるようになると考えています。
※イメージ図であり、特定の海域における結果を示すものではありません。
海の変化に、私たちはどう向き合う?
お話をうかがって、海の変化が私たちの食卓に影響していることを改めて実感しました。この変化に対して、私たちにできることはありますか。
海の変化を身近に感じることが、「はじめの一歩」かもしれません。まずは、魚屋さんやスーパーの鮮魚コーナーに立ち寄ってみてほしいですね。並んでいる魚がどこで獲れたものか、天然か養殖か、自分の目で確かめるだけでも、海との距離がぐっと近くなります。海の変化に応じた魚介類の消費にもつながり、地産地消にも貢献できるかもしれません。
私自身、旅先では必ずその地域のブランド魚を調べて、現地で食べるようにしています。魚について知りながら食べると、また味わいが変わりますよ。
私自身、旅先では必ずその地域のブランド魚を調べて、現地で食べるようにしています。魚について知りながら食べると、また味わいが変わりますよ。
店頭で目立つ形で並んでいるのは、今が旬で豊富に獲れた魚です。そういうものを優先して手に取ることも、海の資源を無駄なく活かすことにつながります。また、地元特産の柑橘類をエサに加えるなど、独自の技術でよりおいしい魚に育てたブランド養殖魚も増えています。そうした地元の取り組みにも関心を持ちながら、積極的に試してほしいですね。
食卓に魚を安定して届けるための取り組みをどう先につないでいくかは、私たち一人ひとりの選択にもかかっていると感じました。
漁師さんや養殖業の方々の仕事をはじめ、様々な取り組みに感謝しながら、魚を手に取るとき、食べるときに少し意識していきたいと思います。
本日はありがとうございました。
漁師さんや養殖業の方々の仕事をはじめ、様々な取り組みに感謝しながら、魚を手に取るとき、食べるときに少し意識していきたいと思います。
本日はありがとうございました。

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