衛星データによる4Dデジタルツインが暮らしを変える

衛星データによる4Dデジタルツインが暮らしを変える

防災からまちづくりまで、衛星データ活用の最前線

「地球の学校」は、さまざまな社会課題を切り口に、その解決のヒントを読者の皆さまとともに探っています。
今回、GIS(地理空間情報システム)業界唯一の専門雑誌「GIS NEXT」とのコラボ企画として、衛星分野で社会課題の解決に取り組む株式会社Marble Visionsにお話を伺いました。
本記事は「GIS NEXT」2026.07 第96号掲載の記事をもとに、一部画像を追加して「地球の学校」でも掲載するものです。
宇宙ビジネスの最前線で挑戦を続ける同社の取り組みを、ぜひご覧ください。

猛暑の中、外を歩く際に日陰の多いルートが分かったら、あるいは災害発生時にいち早く現地の状況が分かったら、私たちの暮らしは現在よりより豊かになるはずです。そんな夢のような世界がもうすぐ実現するかもしれません。
株式会社Marble Visionsが取り組む4D衛星システム「MarVi®」(マーヴィ)は、衛星を自ら設計・製造し、自ら運用し、自ら解析して自らサービスを提供することで「準リアルタイムな高精度4Dデジタルツイン」の社会実装を目指しています。
このプロジェクトについて、同社事業推進部長の若松健司氏、事業推進部事業推進担当兼経営企画部経営企画担当部長の本間さや香氏にお話を伺いました。

プロフィール

話し手 若松 健司 氏

株式会社Marble Visions 事業推進部長

プロフィール

衛星リモートセンシング分野の事業開発・研究開発のエキスパート。NTTデータで画像認識研究や衛星事業企画、AW3D事業の立ち上げを主導。リモート・センシング技術センターでのソリューション事業展開を経て、現在はMarble Visionsの事業推進責任者として新たな衛星ソリューション事業の創出を牽引。

  


話し手 本間 さや香 氏

株式会社Marble Visions 事業推進部 事業推進担当 兼 経営企画部 経営企画担当 担当部長

プロフィール

NTTデータにて地理情報システム(GIS)の営業を経て、2014年より衛星3D地図「AW3D」の営業・マーケティング・パートナー開拓を担当。政府・自治体、建設・土木業界への衛星データ事業を拡大し、同分野の基盤を築く。2024年からはMarble Visionsに参画し、新たな市場開拓と事業成長を牽引。

  


聞き手 遠藤 宏之

GIS NEXT 編集部

聞き手 樋口 沙紀子

地球の学校 編集室

「使える」衛星データの提供のため3社が協力

遠藤
Marble Visionsは衛星観測サービスの専門会社としてNTTデータ、パスコ、キヤノン電子の3社の出資で設立されたと伺っています。その経緯から教えてください。
若松
近年、宇宙技術の進化により、ロケットの低コスト化や小型衛星コンステレーション(※)の発展が進み、地球観測データをより高頻度かつ高精度に取得できる環境が整いつつあります。一方で、衛星サービスの分野では、衛星の開発・運用、地上システム、データ解析、サービス提供などがそれぞれ異なる事業者によって担われることが一般的であり、お客様から寄せられる多様なニーズを迅速にサービスへ反映することが難しい側面もありました。

NTTデータでは2014年から全世界デジタル3D地図サービス「AW3D®」を展開し、衛星データから地形モデルや3D都市モデルを構築することで、世界130カ国・地域以上、4,000件を超える利用実績を積み重ねています。その中で、「もっとこんな撮り方ができるといいのに」「こうなったらもっと業務に活用できるのに」といったさまざまなお客様の声を伺ってきました。
こうしたニーズに柔軟かつ迅速に応えていくためには、データを解析して提供するだけではなく、衛星データの取得から解析、サービス提供までを一体的に設計・運営できる体制が必要ではないかと考えるようになりました。

そこで、AW3Dを通じて衛星データ活用サービスを展開してきたNTTデータに加え、空間情報事業および衛星運用を支える地上システム事業で実績を持つパスコ、小型人工衛星の開発・製造・運用に豊富な知見を持つキヤノン電子の3社が連携し、衛星の開発・運用からデータ活用サービスまでを一気通貫で担うMarble Visionsを設立しました。お客様の課題解決に必要なデータとサービスをより迅速かつ柔軟に提供するための垂直統合型の事業モデルを実現することが、Marble Visions設立の出発点です。

※ 小型衛星コンステレーション:多数の衛星を宇宙に配し、それらを連携させながら一体で運用するシステム
全世界デジタル3D地図サービス「AW3D」

デジタルツインを実現する4D光学衛星観測システム

遠藤
貴社の事業の柱として開発が進められている「MarVi」についてご紹介ください。
若松
私たちが開発している「MarVi」は4Dの光学衛星観測システムです。4Dというのは、従来の3Dに時間軸を加えるものです。高分解能の光学衛星で衛星コンステレーションによる高頻度撮影を実施することで、準リアルタイムの4D地図を提供して、公共・産業で活⽤可能なデジタルツイン(※)を実現します。

センサーの地上分解能は40cm級、8機の衛星の連携により、同一エリアを1日1回の頻度で撮影できるほか、ALOS-3(だいち3号)と同等の50kmの観測幅を8機組み合わせて実現します。

※ デジタルツイン:現実世界を再現した仮想空間でシミュレーションや未来予測を行い、現実世界に活用する仕組み
2027年から40cm級小型光学衛星8機を打上
遠藤
どのような仕組みなのですか。
若松
JAXAのALOSは1台の衛星の3方向撮影による3D化を行っていましたが、「MarVi」では8機を2機ずつのペアとして協調運用させることにより、3D化を実現します。小型衛星で2機のペア撮影というのは他にないと思います。立体視観測するのが「MarVi」の最大の特長で、測量にも手軽に使っていただけます。海外も含め既存の衛星は基本単写真なので、差別化が図れると考えています。
遠藤
海外の衛星ベンダーは主として「データを売る」モデルを中心としているのに対して、貴社では「ソリューションを売る」ことを指向されています。
若松
私たちが目指しているのは、衛星データそのものを提供することではなく、その先にあるお客様の課題解決に貢献することです。多くのお客様にとって重要なのはデータそのものではなく、そこから得られる洞察や意思決定に活用できる情報です。
Marble Visionsでは、衛星の開発・運用からデータ解析、サービス提供までを一気通貫で担う体制を構築しています。この強みを生かし、お客様が本当に必要とする情報を適切なタイミングで提供できるサービスの実現を目指しています。

活用領域としては、公共分野では国や自治体による国土管理、防災・減災、都市計画などを想定しています。民間分野では、通信、エネルギー、鉄道などのインフラ管理に加え、建設・土木・交通など幅広い領域への展開を想定しています。衛星データが社会課題の解決に貢献できる領域は非常に広いと考えています。

また私たちの衛星は「⾼分解能・⾼頻度な光学衛星観測システム」としてJAXAの宇宙戦略基⾦の採択を受けており、防災・減災や国土保全をはじめとする公共性の高い分野での活用も期待されています。たとえばアジア・太平洋地域における国際協力の取り組みや、災害時は優先的に対応することなども重要な役割の一つです。そこも応えていきたいと考えています。
高分解能・高頻度の3次元光学衛星観測システム(MarVi)の概要
※本取組は宇宙戦略基金の補助を受けて実施しています。

社会のDXへどう貢献するのか

遠藤
これによって衛星データ活用はどのように変わるのでしょうか。
本間
これまでも公共や企業の現場で衛星を使いたいという需要は一定数ありました。海外の危険な地域に行かなければならないケースなどはその一つで、国境も関係なく撮影できる衛星は重要な選択肢でありながら、更新頻度が低いことがネックになっていました。
たとえば海外では乾季と雨季で大きく状況が変わります。国内でも季節によって森林の様相は変わるので、年1回の更新では追いつきません。それが3カ月に1回程度更新されれば、現況を反映した使えるデータになるので、その分現地に入る頻度を抑えることができます(※)。
また「MarVi」はアプリケーションとしての利用しやすさを考えています。GISに精通していなくても衛星データが使える。利用者がより衛星データや3D地図を利用しやすいプラットフォームを提供することができれば、利用する側も業務のあり方が大きく変わると考えています。

※目標とする更新頻度は主要都市が3カ月に1 回、日本国土を1 年に1 回
遠藤
防災や復興の分野では特に有効かと思いますが、災害時などはどのようなユースケースを想定していますか。
本間
衛星の強みは災害発生後だけでなく、発災前の情報もあるという点です。たとえば地震の際には発災前のデータと発災後に取得したデータを活用し、3Dで発災前後の比較を可視化することで、建物の倒壊・消失や地形の変化をすぐに把握することが可能になります。重要施設の被災状況はもちろん、土砂災害箇所と道路データを重ねることで、通行可能道路の把握やアクセスルートの迅速な決定などに適用できるのではと考えています。
樋口
早い段階で状況把握ができれば2次災害を防ぐことにも役立つはずですね。そのほかにも衛星を活用することの利点などあるのでしょうか。
本間
広域を効率的にデータ取得できることや、海外など航空測量が制限を受けるエリアでも撮影が可能なことが利点です。また40cmという地上分解能にこだわったのは、多くの自治体が予算の問題等で困っている地図の更新のための測量に使えるスペックであるというのも一つの理由で、実際に17条申請(※)を活用して公共測量の都市計画基本図を衛星データから更新した事例があります。

※17条申請:従来の規定にない新しい測量技術を用いる際に、精度の担保を証明し、事前に国土地理院長の承認を求めるための申請

私たちの暮らしを変える4Dデジタルツイン

樋口
衛星データによる高精度3D地図が日常的に更新されることで私たちの生活がどのように豊かになるのでしょう。身近な利用シーンのイメージはありますか。
本間
わかりやすいところでは、近年夏の猛暑が深刻ですが、たとえば3D地図で日照を解析することで、日陰がどこにできるかわかります。建物だけでなく樹木1本1本も反映されているので、季節や時間に応じた日陰マップをつくることなどは可能なのではないかと考えています。
こうした日陰マップが普段の生活の中で使えるようになれば、できるだけ日陰の多い道を歩きたい方にとって有効な情報になります。ベビーカーを押す人や小さなお子さん、高齢者の方にとっても、より安全で快適な暮らしになるのではないかと思います。
樋口
日陰マップはイメージしやすいですね。時間の変化まで捉える「4D」になることで、私たちの生活にどのような恩恵があるのでしょうか。
本間
デジタルツインというのはいわゆるシミュレーション空間で、たとえば大雨が予想される際にどこに水が集まりやすいかを予測したり、新しい建物が建った場合に周辺の日当たりや風の流れがどう変化するかを事前に確認したりという使い方ができます。その時間解像度が上がることで、今まさに私たちが暮らしている現実を反映した空間でシミュレーションができるようになり、その結果をもとに状況に応じた対策が打つことが可能になります。
生活状況が可視化され、小さな課題解決も含めて一つずつ対策することで、私たちの暮らしをより豊かにしていけると考えています。
3次元データを定期的に取得し時間軸を加えた4D化を実現(東京駅周辺の地図イメージ)

衛星がもたらすこれからの未来

遠藤
2027年に衛星の初号機打ち上げとのことですが、現在の開発フェーズと今後の予定について教えてください。
本間
現在は、衛星システムや地上システム、サービス基盤を含めた研究開発を進めているところです。予定では2027年に2機打ち上げ、2029年までに8機体制を目指しています。最初の2機でさまざまな実証を重ね、その後徐々に事業展開できればと考えています。
遠藤
最後に、「MarVi」が実現した先に、社会がどう変わるのか、10年後20年後を見据えて貴社が描く未来像を教えてください。
若松
衛星データを利用するインターフェイスは大きく変わっていると思います。お客様が求めている情報や解析の結果をプラットフォームから簡単に得られるようにするのが私たちの役割ですが、その際の人間とのインターフェイスも大きく変わっているでしょう。お客様が要求を対話的に与えると、システムが衛星データを活用してAIで意思決定を支援する。衛星データも3D地図も裏で動くのでお客様には見えないですが、日常業務で使われている、そんな世界になるのではないでしょうか。
本間
10年後20年後には衛星も数十機になっているでしょうし、搭載されるセンサーも今より格段に進化していて、より役立つ情報を提供できるようになっているのではないでしょうか。目指すは「宇宙がインフラになる」世界です。それを利用者は意識せずにサービスを享受する。そんな未来をつくっていけたらと考えています。
樋口
それが遠い未来ではなく、手が届くところまで来ているということですね。
お話を伺ってますます期待が膨らみました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

本記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
この記事が、皆さんとともに学び、考えるきっかけとなれば幸いです。
よろしければ、あなたの大切な人や社会課題に関心のある方にも、ぜひシェアしていただけるとうれしいです。


Marble Visionsについて
【社 名】株式会社Marble Visions
【代表者】湯川 洋一郎
【設 立】2024年7月1日
【所在地】東京都江東区豊洲五丁目6番36号 豊洲プライムスクエア
【株 主】NTTデータ(60%)、パスコ(30%)、キヤノン電子(10%)

GIS NEXTについて
【名 称】GIS NEXT(ジーアイエスネクスト)
【出版社】株式会社ネクストパブリッシング
     千代田区神田神保町3-11 よりたてビル3F
     代表取締役 千葉 厚
     http://www.nextpb.com/
【発行日】季刊(1、4、7、10月下旬頃)


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