街の緑と人々の安全・安心を守るには?

街の緑と人々の安全・安心を守るには?

街路樹に潜む危険をいち早く察知するための最新技術とは?

車の運転中に、信号や標識が樹木に遮られてよく見えず、ヒヤリとしたことはありませんか? また、近年では倒木被害のニュースもよく見るようになりました。なぜ、街路樹による事故が増えているのでしょうか。街路樹管理の現状と課題、人々が安全・安心に生活するための取り組みについて、アセットマネジメント部 公園課 の村田利和子さんにお話をうかがいました。

プロフィール

話し手 村田 利和子

株式会社パスコ 中央事業部 アセットマネジメント部 公園課

2016年にパスコ入社。
主に公園緑地・街路樹の調査や維持管理計画の策定支援業務、公園設計業務に従事。

※プロフィールは取材当時のものです

プロフィール

聞き手 樋口 沙紀子

地球の学校 編集室

なぜ倒木被害が増えた? 街路樹が抱える問題

樋口
最近、倒木被害のニュースをよく目にするようになりました。実際こうした事故は多いのでしょうか。
村田
国土交通省の調査によると、ここ数年は全国において年間平均で約200件の事故が発生していることがわかっています。被害がなかったものも含めると、年平均で約5,200本が倒れています。
国土交通省資料(https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/ryokuka/pdf/k01.pdf)より引用、一部改編
樋口
そんなに起きているんですか...原因は何ですか?
村田
道路に沿って植えられた樹木のことを「街路樹」といいますが、この街路樹の倒木は、強風などのほか、根や幹が腐ったり、病気や老木で弱ったりしたのが主な要因です。
戦後の日本では、道路の整備とともに緑化も進められて、その際、早期緑化を図るために成長の早い樹木が選ばれる傾向がありました。その結果、想定以上に大木化し、道路の通行に支障が出ているという現状があります。
樋口
他にも原因はあるのですか?
村田
歩道が狭く十分な植栽の幅や間隔が確保できず、幹や根の生育が妨げられている環境も倒木が発生しやすくなる要因の一つです。舗装された土の中は、電線や水道管なども通っているので、根を広く張ることができません。地上部に関しても、植栽の間隔が狭かったり、ビルが建っていることで、日当たりや風通しが悪かったりすると、害虫が付きやすくなります。
老木化した樹木には印がついていることも

豊かで安全な生活を支えてくれている街路樹

樋口
そもそも、なぜ街路樹を植える必要があるのでしょうか。
村田
街路樹は、安全で快適な道路環境を作るために植えられています。夏の強い日差しを遮ったり、二酸化炭素を吸収したり、ドライバーへの視線誘導や車が衝突した際の緩衝効果もあります。信号機や標識とは違い、花や葉の色づきで四季を伝え、暮らしに潤いを与えてくれるのも街路樹が持つ魅力です。
また、気候変動による災害から住民や町を守るための「グリーンインフラ」としての役割も、街路樹に求められていることの一つです。街路樹があることで、都市におけるヒートアイランド現象を緩和できたり、大雨の際に排水のピーク流量を緩和したりすることができます。
樋口
素晴らしい機能ばかりですね! 
村田
他にも、災害で住宅が倒れた際に、街路樹がその支えになることで、車道の通行を確保するという役割もあります。樹木に含まれた水分で、火災の延焼を遅らせることもできます。

どうしたら健全に維持できる? 街路樹管理の現状と課題

樋口
街路樹には、想像以上にたくさんの機能があることがわかりました。
でも、樹木が健全でなければその役割が発揮されないですよね。
村田
その通りです。街路樹が持つ本来の機能を活かしていくために、適切に管理していくことが、今求められています。
樋口
具体的には、誰がどうやって管理するのでしょうか? 
村田
国道であれば国、県道であれば県というように、道路の管理者が街路樹を管理しています。
管理には点検、剪定、病虫害防除などがあり、樹木の種類に応じ適切な時期や方法で行われています。点検は、樹木の現状を知り、健全な状態に保つために必要で、具体的には主に3つあります。

一つ目は、通常巡回です。
この方法では、パトロール車で巡回しながら遠方目視により街路樹の倒木や落枝などを確認します。
二つ目は、定期巡回です。
定期巡回では、実際に樹木の近くまで行って異常がないかを確認する、近接目視が行われます。
そして三つ目は、台風や地震などが起きた後に行われる、異常時巡回です。
それぞれの巡回で異常が見つかった場合は、必要に応じて樹木医などの専門家を交えながら、剪定や伐採、植え替えが行われます。
樋口
歩いて一本一本確認するのは、かなり大変そうですね。
それに、車での巡回では細かい異常まで見つけられない気がします。
村田
そうですね。街路樹は、高さが3メートル以上の高木だけでも、全国で約630万本あります。パトロール車での通常巡回はほぼすべての道路管理者が実施していますが、徒歩での定期巡回は、人手や予算の問題があり、4割ほどにとどまっているのが現状です。
樋口
それだと街路樹による事故を未然に防ぐのは、ハードルが高そうですね...。
村田
そんな状況を改善するために、国土交通省は2026年3月に「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」を出しました。限られた体制の中でも実効性のある定期巡回ができるようにと、対象となる樹木の優先順位や新技術の活用などについて示されています。
出典:国土交通省「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」
(https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/gairoju/pdf/r8guideline.pdf)

効率化を叶える3次元データと画像解析技術

樋口
効率よく点検するための取り組みってあるんですか?
村田
はい。今、様々な新技術の活用が推進されています。例えば
 ・樹木上部を周辺状況とともに撮影(全方位画像)する技術
 ・画像を使った点検・診断と電子データとして記録する技術
 ・樹木の傾きをモニタリングする技術
 ・樹木を引張して安定性を把握する技術
 ・電磁波で地下埋設物を探査する技術
などが国土交通省のガイドラインで紹介されていますね。
樋口
具体的にはどういったものなんですか? 
村田
例えば、MMS(モービルマッピングシステム)を使った点検方法です。
MMSは、レーザースキャナーや360°カメラなどを搭載した車を走らせ、周辺の3次元データを取得するシステムです。

車を走らせるだけで情報を取得できるので、より効率的に点検ができます。
さらに、取得したデータを蓄積し、デジタルマップを作成することで、樹木の成長度合いや異常の兆候を早期に発見できます。街路樹を管理する台帳がなかったり、更新されていない自治体は、こういった新技術を活用することで効率的に樹木の状態を把握できるようになると思います。
MMS(モービルマッピングシステム)
撮影した画像(左)と3次元点群データ(右)
樋口
この技術でどんなことがわかるんですか? 
村田
点群データと360°カメラの画像から、樹木の位置はもちろん、樹高、幹周、枝幅などを現地に行かずに計測することができます。通常巡回や定期巡回では確認が難しい、樹木上部の点検も可能になります。
また、道路法では一定の空間を確保しなければならないという「建築限界」が定められていますが、3次元データを活用することで、一本一本目視で点検するよりも効率的に確認できるようになります。

3次元データを使って、効率的に点検できる
樋口
かなりの時間を削減できそうですね。
村田
そうですね。樹高の計測などの基礎的な点検作業の場合、従来の方法で点検した場合と比べると、3次元データを活用すれば約4分の1に時間を短縮できることがわかっています。
樋口
すごい進歩ですね!点検後はどうなるんですか? 
村田
樹木医など専門家を交えてより詳細に診断して、街路樹本来の機能を活かせるように、必要に応じて病虫害防除などを行い、樹勢の回復が困難な場合は伐採や植え替えます。
具体的には、老木化などが原因で空洞ができていたり、病気にかかった樹木を治療したり、伐採や植え替えをして倒木を未然に防ぎます。
また、狭い道路に植えられている大径木化した街路樹は、計画的に伐採や植え替えをして交通の安全を確保する措置が取られます。

2015年度にこうした指針が示されている「道路緑化技術基準」が改正されたことで、道路緑化に関する再生計画や維持管理計画を立てる自治体も多くなってきていますよ。

安全・安心な街づくりのためにできること

樋口
私たちにも、何かできることはありますか? 
村田
ひとつは、過酷な環境で生育する街路樹の状況と倒木のリスクを知ることです。
例えば、最初にお話ししたように、戦後に植えられたソメイヨシノの多くが高齢期に入っています。私たちの目を楽しませてくれるサクラが伐採されることに抵抗を覚える方も多いと思います。
でも、樹木にはそれぞれの寿命があること、安全・安心に生活するためには、適切な剪定などの維持管理や伐採、植え替えを適切に行う必要があることを知っていただけると嬉しいです。

そして、もし枝が折れそう、大きく傾いているなど、街路樹の異変に気づいたら、お住まいの自治体の道路管理者に伝えてください。
樋口
道路管理者にはどのように伝えればいいですか? 
村田
24時間受付の道路緊急ダイヤル「#9910」や、自治体によってはアプリを用意しているところもあり、写真をアップロードして異状を知らせることができます。
適切に管理し、植え替えて再生していくことは、ドライバーや歩行者の安全を守ることにもつながるので、みんなで守っていきたいですね。
みんなで安心・安全な街を守ろう
樋口
状況を正確に説明するのは難しいなと思っていたましたが、写真なら簡単にできそうです。

今回お話を聞いて、街路樹が私たちの生活を快適にしてくれていること、その環境を守ってくれている人たちがいることを知ることができました。
今まで何気なく通っていた道も、違った目線で見ることができそうです。
本日はありがとうございました。

村田
ありがとうございました。

本記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
この記事が、皆さんとともに学び、考えるきっかけとなれば幸いです。
よろしければ、あなたの大切な人や社会課題に関心のある方にも、ぜひシェアしていただけるとうれしいです。
また、以下に関連記事も公開していますので、あわせてご覧ください。

■関連する編集室ブログ

街路樹はただの木じゃない。私たちの暮らしを支えるその役割とは?

守られてきた緑。栗林公園で気づいた自然との関係

8月10日は"あたりまえ"の道路に"ありがとう"を

■関連する学び記事

「道路面の健康診断」って何? 安全な移動を支える最新技術

■関連リンク

道路アセットマネジメントシステム PasCAL for LGWAN 道路

道路空間の3次元計測技術