GPSだけでは足りない?高精度な位置情報を支える仕組みとは

GPSだけでは足りない?高精度な位置情報を支える仕組みとは

正確な「今ここ」が未来社会を変える 高精度測位の力

「地球の学校」は、さまざまな社会課題を切り口に、その解決のヒントを読者の皆さまとともに探っています。
今回、GIS(地理空間情報システム)業界の専門雑誌「GIS NEXT」とのコラボ企画第2弾として、高精度GNSSの補正情報を提供し、社会課題の解決に取り組む株式会社ジェノバにお話を伺いました。
本記事は「GIS NEXT」2026.10 第97号掲載の記事をもとに、一部画像を追加して「地球の学校」でも掲載するものです。
高精度測位の最前線で挑戦を続ける同社の取り組みを、ぜひご覧ください。

現在私たちの暮らしの中で普通に使われている位置情報。この便利な環境が実現しているのはGPSのおかげと思われがちですが、実はそれだけで高精度の位置情報が得られるわけではありません。GPSそのものはさまざまな誤差を含んでおり、位置精度を担保するには何らかの補正が必要なのです。顧客が観測したデータにリアルタイムで補正情報を配信することでセンチメートル精度の測位を実現しているのが株式会社ジェノバです。
空間情報社会を支える同社の技術について、取締役(技術担当)の細谷素之氏と技術顧問の藤原智氏にお話を伺いました。

プロフィール

話し手 細谷 素之

株式会社ジェノバ  取締役(技術担当)

プロフィール
測量会社にて空中三角測量、測地測量、天文測量、用地測量などを経験し、国、地方自治体(官公庁)の営業を経てジェノバへ。海外ではサウジアラビアとイラクの国境画定一等多角測量及び国境点設置、リビアにて標定点測量、ブラックメソッドによる天文測量等を経験。ジェノバでは主に技術系を担当し利用普及を推進、作業規程の準則改定にも関わる。タイへのネットワーク型RTK配信の技術移転(JICA作業)に参画。

    

話し手 藤原 智

株式会社ジェノバ 技術顧問

プロフィール
国土地理院にて長年測地測量を担当。重力、地磁気、衛星SAR、防災、国際、測量法改正などに関わる。南極地域観測隊、米国NASA、文部科学省、国土交通本省、内閣府宇宙(みちびき担当)も経験。進化し続けるGNSSはいまだに勉強中。2023年から現職。


聞き手 遠藤 宏之

GIS NEXT 編集部

聞き手 樋口 沙紀子

地球の学校 編集室

高精度な衛星測位のための補正情報を提供

遠藤
まずはジェノバの事業についてご紹介をお願いできますか。
藤原
当社は高精度GNSSの補正情報配信サービスを行っている会社です。「高精度GNSS」と聞くと難しく感じますが、GNSSは多くの皆さんがスマホやカーナビで日常的に使っている衛星測位のことです。
一般にはGPSと呼ばれているものの、現在はGPS衛星だけでなくGLONASSや準天頂衛星「みちびき」など複数の衛星を使うようになっており、これらを合わせてGNSSと称しています。
衛星からの電波はさまざまな誤差を含んでいるため、正しい位置を示すためには補正が必要です。私たちはその補正情報を配信しています。
樋口
スマホのGPSとはどう違うのでしょうか。
藤原
スマホやカーナビの位置情報にも補正は入っていますが、精度としては数メートルというレベルです。用途を考えればその程度の誤差があったとしてもそれほど問題はないとはいえ、測量や建設などの分野では数センチメートルの精度が要求されるため、高精度GNSSが必要になります。
両者の違いは単純化すればスマホなどが電波の粗い目盛り読んでいるのに対して、高精度GNSSは細かい目盛りが読めるイメージです。さらに、スマホは1台だけで位置を決めているのに対して、高精度GNSSは2台の差を見て誤差を消すことをしているということです。

樋口
高精度GNSSはどのように社会に役立っているのですか。
細谷
わかりやすい例が災害復興です。復旧・復興は測量しないと始まりません。そしてその測量はセンチメートル級の精度が求められます。中には下水道台帳など1/1000単位の勾配を測らなければならないシビアな世界もあります。

災害時でいえば1995年の阪神・淡路大震災の頃から衛星測位(当時はGPSのみ)が使われていました。当時は複数の受信機を固定して長時間データを観測して、後処理で高精度な位置を求めるスタティック法が主流で、精度は良いですが手間も時間がかかりました。その後リアルタイムで解析してその場で位置を求められるRTK法(リアルタイムキネマティック:固定局の情報を使いながら移動局で即時解析する手法)が普及して衛星測位による測量が本格化していきます。

当社が創立した2002年は、測量法が改正されて「世界測地系」が導入された年です。変更前の旧測地系と世界測地系では450m程度位置がずれるのですが、わざわざ変更したのはGPSに合わせるためです。2002年からはGPSが測量の基本に変わりました。当社では創立以来一貫して国土地理院の電子基準点を利用したRTKのための補正情報の提供を行ってきました。

全国の電子基準点から仮想固定局を生成して高精度補正を実現

遠藤
補正の仕組みについて教えてください。
藤原
衛星からの電波は、衛星の位置や時計の誤差はもちろん、電離圏を通過する際に電子が電波に干渉したり、対流圏で水蒸気の影響を受けたりすることで誤差が蓄積されています。これらの誤差は複数の受信機で電波を受けて、その差を見ることで解消できます。RTKの場合は固定局の情報を利用して移動局の正確な位置をリアルタイムに求めることから、動きながら測ることが可能です。
これは非常に効率が良いのですが、固定局と移動局が離れると誤差の成分が変化するため、通常は固定局から約10km以内しか使えません。また固定局の設置・管理が大変でコストがかかることも難点です。

これに対して、当社が提供している補正情報は、全国に1300ある国土地理院の電子基準点を固定局としてネットワーク化し、観測している場所の最寄りの場所の周囲の固定局を組み合わせるネットワーク型RTKの手法を使っています。電子基準点網から観測点の近傍に仮想固定局(VRS)を生成し、通信回線を使ってVRSの情報を移動局(観測を行っている受信機)で受けて、位置を決定するというものです。
ネットワーク型RTK の仕組み
全国の電子基準点を固定局としてネットワーク化し、観測している場所の最寄りの場所の固定局を組み合わせて観測点の近傍に仮想固定局(VRS)を生成、通信回線を使って補正情報を送る。
ネットワーク型RTKの利用状況
海岸線なしでも日本列島の形が浮かび上がるほど「どこでも」利用されている。
遠藤
全国の電子基準点の情報を活用しているのですね。
藤原
こうした補正が可能なのは、国土地理院が電子基準点網を維持・管理して観測しつづけているからこそです。一方、情報を利用するユーザーはさまざまで、要求もそれぞれ異なります。そこで私たち事業者が間に入り、全国の電子基準点の情報を24時間解析センターに集めて補正情報を生成しリアルタイム配信することで高精度と高信頼性を実現しています。

補正にはもう一つ重要な要素があります。電子基準点は日々観測を行っているため、地殻変動も検出します。地震などによる変動はもちろんですが、日本列島はプレート運動にともない常に変動しており、変動量は数年で10cmを超えることもあります。たとえば2015年から2025年の10年間の変動を見ると、2024年の能登半島地震による大きな変動のほか、西日本ではフィリピン海プレートの動きによる変動、北日本では2011年の東日本大震災の余効変動が続いていることが見て取れます。数センチメートルの精度で位置を測るにはこうした地殻変動分を是正する仕組みも欠かせません。
当社ではそのための独自のシステムをつくり、地殻変動も含めた補正情報を提供しています。
2015~2025年の10年間の地殻変動
地震やプレート運動にともなう広域の地殻変動は数年で10㎝を超えることもあり、補正が不可欠。
樋口
創立当時から補正情報を提供されていたのですか。
細谷
そうです。サービスを始めた翌年の2003年十勝沖地震で約90センチメートルの変動があり、その対応で苦労しました。こうした地震による地殻変動や太陽フレアによる電波の乱れなど、平時とは異なる極端な状況下での運用についてもノウハウを積み重ねてきました。測量は復旧復興には不可欠です。大地震で動いたらすぐ対応しなければならない。東日本大震災や熊本地震などでも大きな変動がありましたが、そこにもいち早く対応できたのは、経験を重ねて運用をつくってきたからこそだと思っています。
近年は「みちびき」もCLASなどの高精度測位の補強サービスを出しています。CLASは基地局を必要としないので手軽に使える強みがありますが、精度では全国の電子基準点の情報を集めてユーザーの観測地点に特化した補正を行うRTKに及びません。用途によって棲み分けることになると思います。

「高速道路」型の社会インフラとして

樋口
高精度GNSSは現在どのような分野で使われているのでしょう。
藤原
当初は測量用途が主でしたが、最近では土地の登記やICT施工を使う建設業、精密農業、あるいはドローンなど用途が広がっています。こうした分野は人手不足が深刻で、時短を求められているため積極的にDXを行っていることも背景にあります。
たとえば建設で使われているICT建機は図面を入れれば半自動で精密に作業することもでき、作業結果も定量化してアウトプットされます。
こうした工程はセンチメートル精度かつデジタルだからこそできることです。
遠藤
自動運転の分野などはいかがですか。
細谷
自動運転分野では検証は続いていますが、まだ本採用に至っていません。ただ、自動運転の基盤となる高精度3次元地図の作成の際には当社の補正情報を使ってデータ取得がされています。
価格の問題もあるのでなかなか手軽に使っていただけていない現状がありますが、今後ユーザーが増えていけば状況も変わるのではないかと期待しています。
藤原
高精度測位は「いつでも」「どこでも」「誰でも簡便に」使える社会インフラになりつつあります。社会インフラには実現するための「技術」とそれを活かすための「制度」の両方が必要です。
たとえば道路という技術をインフラとして活かすために、道路交通法や自賠責保険などが制度として機能しています。高精度測位でいえば、測位技術だけでなく、位置の基準としての国家座標が制度として不可欠で、それを実現するために地殻変動補正なども含めた裏でたくさんの補正や基準が動いています。
そしてネットワーク型RTKは官民協働による「高速道路」型の社会インフラといえます。料金が必要だけど、それに見合った価値を提供するという図式です。この仕組みをもっと普及させていければと考えています。
GNSSの活用分野の例
建設業・精密農業・ドローンなどの分野で活用が広がっている。
遠藤
今後の展望についてお聞かせください。
細谷
高精度GNSSが社会インフラであれば、ユーザーを選ばないので、可能性は無限にあります。適用分野を拡大しながら少しずつコンシューマに向かっていけばいいと考えています。当社のサービスは国土地理院の電子基準点を使っているので海外展開はできません。また単一サービスなので、現在の技術をひたすらブラッシュアップしていくしかありません。
今後はニーズがどう育っていくのかがカギだと思っています。利用が広がれば要求もシビアになっていくので、さまざまな機関やメーカーと情報交換しながら柔軟なサービスを展開していきたいと考えています。
藤原
トピックとしては、国土地理院が2025年に最新の高精度ジオイドモデルを公開したことで、高さをも決定するツールになりました(※)。これは大きな転換点です。これによりGNSSは地殻変動等の時間変化も含め「4次元ツール」として活用されていくことになるでしょう。そうなれば当然それに見合った補正情報が必要になります。当然用途も広がっていくことが期待できます。

※ GNSS で求められる高さは楕円体高(地球を仮想の楕円体として定義)であるのに対して、標高はジオイド面の高さ。GNSS では楕円体高からジオイド高を引くことで標高を求める。
樋口
最後に、高精度GNSSで私たちの生活はどのように変わると考えていますか。
藤原
近年はスマホも2周波GNSSを積んでいるモデルが登場しており、高精度測位に適した内蔵アンテナの開発など、さらなる進化に期待しています。そうすれば、今後は誰でも補正情報を利用することで高精度な位置情報の恩恵を受けられるようになるでしょう。
たとえば経路案内でも現在は建物までの誘導ですが、センチメートル精度になれば玄関までピンポイントに案内することができるようになるでしょう。
道路のどちら側を歩いているのかもわかるようになるので、今は考えもしないような新しいサービスが生まれる可能性もあります。

高精度GNSSが実は深く生活に関わっていることを学びました。ありがとうございました。

本記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
この記事が、皆さんとともに学び、考えるきっかけとなれば幸いです。
よろしければ、あなたの大切な人や社会課題に関心のある方にも、ぜひシェアしていただけるとうれしいです。

ジェノバについて
【社 名】株式会社ジェノバ
【代表者】代表取締役社長 戸上 敏
【発 足】2002年1月28日
【所在地】東京都千代田区神田須田町1丁目34番地4(神田グロウビル)

GIS NEXTについて
【名 称】GIS NEXT(ジーアイエスネクスト)
【出版社】株式会社ネクストパブリッシング
     千代田区神田神保町3-11 よりたてビル3F
     代表取締役 千葉 厚
【発行日】季刊(1、4、7、10月下旬頃)